カメラリウス『象徴とエンブレム (動物編)100』鷲と蛇の格闘
VICTOR UTERQUE CADIT
Victor uterque cadit. proh quam victoria acerba est,
Cum trahit in praeceps una ruina duos.
<題銘> 勝者はそろって落ちる。
<解釈詩>
勝者はそろって落ちる。勝っても、組打つ二人を一つの破滅へと導くのなら、
ああ、勝利はなんと苦々しいことか
【図絵】鷲に襲われた蛇は鷲に空高く運び去られるが、鷲を倒すべく蛇は格闘し、その結果、共に墜落し、池の中に落ちてしまう。
【背景】メルクリウス(ギリシア名ヘルメース)とウェヌス(ギリシア名アフロディーテ)の間に生まれた息子ヘルム=アプロディトスは、15歳になると祖国を去り、外国を放浪していた。その外国のとある場所(カリア)を歩いていると、そこに住む妖精サルマキスに一目惚れされてしまう。青年は言い寄るサルマキスに怒ると、サルマキスは反省しその場を立ち去るふりをして、木陰に隠れて様子見をする。青年は、澄んだ池のほとりにたたずむと、やがて裸になってクロールで泳ぎだした。その姿に刺激を受け、猛烈な欲情を抱いたサルマキスは、同じく池に飛び込み、青年を抱擁する。その抱擁する様子を、オウィディウスはこう描写している。「蛇を、鳥の王者[鷲]がつかんで、空高く奪い去ろうとするが、蛇はぶら下がりながら、鳥の頭と脚を縛りあげ、またその尾を使って鳥の翼を縛りあげる」。
【カメラリウスによる解説】
蛇と鷲との壮烈な戦いについての典拠は、ホメーロス(『イーリアス』12巻201-207)1だが、この箇所をキケローは、『ト占論』のなかでマリウス2についての詩の中で、この上なく優雅に翻案している。
見よ、高きところから雷鳴とどろかすユッピテル神に仕える鷲を。
木の幹から素早く飛び立ち、蛇に噛まれて傷を負ってはいたが…
ウェルギリウスも『アエネーイス』11巻[751-2行]でホメーロスを模倣して、
それはあたかも大蛇をつかんで高く舞いつつ、褐色の
鷲が飛ぶときのよう…3
プリニウスは、鷲と蛇との空中での組打ちについて、二匹ともしばしば同時に死んでしまうかのように記述している。4 プルータルコスもまた、「ストア主義が示す社会通念に対する反論」のなかで、簡潔に「鷲と蛇について」記載している。5 しかしながらこの格闘イメージは、相互に独自に改変し、ポンペイウスとカエサルの確執が教えるように、とくに内乱においてそうであるように、勢力のある者同士が戦争をする確執をあらわすようになった。
<注>
1 「高空を翔る鷲で、兵士たちの行く手を左のほうにさえぎって、爪にはまっ赤な色をした巨大な蛇をつかまえていた、まだ生きていて、もがきあえいでいるのを。それがなおけして闘いを忘れないで、つかまえている鷲の、頚の脇胸のところを、体をうしろに反り返らせて咬んだもので、鷲はその痛さに苦しみもだえ、群集のまっただなかへと、蛇を放して地上へと落してよこした。それで自分のほうは、一声啼きたて、吹く風につれ飛び去ってしまった。」(呉茂一 訳『ホメーロス』筑摩書房 (1971))
2 弁論家であったキケローは、若い頃、自分と同じ出身地のマリウスについての頌歌(対手を称賛する詩)を書き、それを『ト占論』[1. 15 [106]]のなかで再引用した。
3 「それはあたかも大蛇をつかんで高く舞いつつ、褐色の
鷲が飛ぶときのよう。足を絡めて、鈎爪を弛めずにいると、
傷ついた蛇もうねうねととぐろをめぐらし、
鱗を逆立てつつ、口では舌を鳴らし、
頭を高くもたげる。鷲も負けずに攻め立て、曲がった
喋で抗う相手を突きながら、同時に、空を翼で打つ。」
[751-756行](岡道男, 高橋宏幸 訳『アエネーイス』京都大学学術出版会 (2001))
4 『博物誌』10巻5節 蛇は鷲の卵をその巣から盗むので、両者は犬猿の仲であると述べている。両者がその確執により死ぬという記述は見当たらない。
5 『博物誌』10巻5節 蛇は鷲の卵をその巣から盗むので、両者は犬猿の仲であると述べている。両者がその確執により死ぬという記述は見当たらない。
6 『倫理論集』「ストア主義が示す社会通念に対する反論」(De communibus notitiis )と典拠にあるが、実際には、「嫉妬と憎しみについて」5節。鷲と蛇との両者の間の憎しみは強いので、両者の血を混ぜても混ざらないと指摘している。