エンブレム理解ための基礎

エンブレム集とは

 エンブレム集(エンブレーマタ) (emblemata) という、16世紀中葉から17世紀中葉まで、わずか100年間ですが、西欧できわめて流行した、知的文学ジャンルがあります。エンブレムというのは、①短い題名、②図絵、③そしてその二つを説明する短い解説詩という、三つの要素からできています。
この形式で、一冊の本を最初に編んだのは、16世紀イタリアで市民法学者として活躍したアルチャートです。

 エンブレムを見て読むと、シェイクスピアやガリレオの時代の人たちが、生きていくときに、どういう観念を大切と考え、どんな世界観をもっていたのか、図絵と文字という二つの媒体を通して知ることができます。それだけではありません。西欧の人たちが、怪獣をふくめた動植物や、ふだん目にする物事に、どういう心象をいだいていたかも、よくわかるのです。

現在でいうエンブレム

 エンブレムというと、現在では会社の社章、あるいは製品の登録商標の類をさすことが多いのですが、 16世紀以降の西欧には、すでにそうした形でのエンブレムが存在していました。 社章や商標のように、1枚の図絵とそこに付けられた短いモットーからなるもので、主として貴族、修道会、商人が邸宅の紋章の下に飾ったり、帽子にバッジとしてつけた類のものです。

プラエモンスラーテンセリンネン修道院(ペルネック[オーストリア])

 16-17世紀(年代未詳)矢に胸を射られても立ち尽くし、相手を攻撃しようとする熊。その頭上には、「このように倒れず、さらに強く[敵を]打つ」(Non sic cedit, magis laedit)と帯に銘題が記されています。

ヤン・ホッサールト 商人の肖像 1530年頃 ミュンヘン・ピナコテーク美術館蔵

経年の汚れから不鮮明ですが、帽子のつばに、円形のエンブレムが付けられ、そこには一角獣が描かれています。

ページ型エンブレムの誕生

 しかし16世紀中葉からの100年間に、図絵と題銘だけにとどまらず、そこに短い詩がさらに付いたエンブレムが登場しました。図絵を中心として、格言、諺、モットーなどの銘題を冠し、図絵と銘題との関係を解説する詩の三点を一単位とするページ型エンブレムです。

アンドレア・アルチャート『エンブレム小冊子』1534年

題銘 (inscriptio):格言、諺、モットーなどが記載される。

<運>は能力の同僚 

図絵(pictura):題銘を視覚した絵。解読には短詩が不可決。

解説詩(epigrammaあるいはsubuscriptio):題銘と図絵の結びつきを説明する。図絵にこめられた不可解な意味を読者に氷解させる。

蛇がからむ杖ケーリュケイオンが、二つの羽を持って、
  アマルテイアの角の間に立っている。 
この杖は、精神において透徹、語ることにおいてすぐれている人は  
  ものに豊かに恵まれて金持ちになることをあらわしている。

図絵の上に銘が記され、図絵の下には解説の詩が付き、1ページで1エンブレムになっています。

エンブレム集抄訳
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