結婚にあたり、相手の性格の確認は不必要と考えたヴィクトリア朝の女性

If she were married to him to-morrow, I should think she had as good a chance of happiness, as if she were to be studying his character for a twelvemonth. Happiness in marriage is entirely a matter of chance. If the disposition of the parties are ever so well known to each other, or ever so similar before-hand, it does not advance their felicity in the least. They always contrive to grow sufficiently unlike afterwards to have their share of vexation; and it is better to know as little as possible of the defects of the person with whom you are to pass your life.

Austen, Jane, (2006). Pride and prejudice. Ed. Pat Rogers. Cambridge: Cambridge University Press, 25.

もし明日、結婚するとしても、お相手の性格を詮索しつづけて一年たってからでも、お幸せになれるチャンスは同じじゃないかと思うわ。結婚して幸せになれるかは、まったく運ですもの。相手の性格がお互いによくわかっても、結婚前には性格がよく似ていても、だからって幸せいっぱいになるなんてことはまずないわよ。結婚したあとに、なにかの拍子に目に見えるほど性格が違ってきて、お互い嫌になるものなのよ。一生を共にすることになる相手の欠点は、知らぬが仏よ。

エリザベス(左)とシャーロット(右)

相手の欠点は、知らぬが仏

『高慢と偏見』(1813年)はイギリス人が非常に好む小説で、人によっては最高の小説だと称賛する人までいる。この小説の骨格は、ロンドンからやや離れた郊外に住む中産階級の家庭の娘たちが、貴族と結ばれるという結婚物語。ここに登場する貴族の中でも最も金持ちである男性と結婚するのは、ベネット家の次女エリザベス。批評眼の優れたこの女性が、親友の女性シャーロットに、自分の姉が最近近所に越してきた貴族と恋仲になるのではないかと打ち明けた。そのときその親友シャーロットが、エリザベスに向かっていったのが、上記の引用である。

結婚物語

この小説では、政治腐敗、経済格差、社会問題といった自分たちを取り巻く外の世界についての関心は著しく低く、自己を中心とした自分が直接関わる身近な日常世界がまず第一の関心事であり、そこでは日常世界が自分自身の内面にもたらす感覚的な楽しみ(折り目正しい礼儀作法、調度品の趣味のよさ、食べ物の美味、衣服の着こなし、化粧の巧みさ、馬車の大きさ)がきわめて大事にされている。結婚物語という用語から彷彿とさせるイメージは、この小説が提供し、この小説によって確立されたといってもよい。とすると、結婚するにあたって性格の不一致を持ち出し話題にすること、はずいぶん無粋だということになる。

性格不一致