◆人生◆時との戦い

Dum differtur vita transcurrit.

クイッドゥム・ディフフェルトゥル・ウィータ・トラーンスクルリット

もたもたしているうちに、人生はさっと駆け抜けていく。

(セネカ『道徳書簡』第1書簡)

■解説■
  ネロ皇帝の家庭教師であった哲学者セネカは、皇帝に背き謀反を企てているという嫌疑を晴らすために、晩年の3年間は妻とともに南イタリアを転々としていた。そうした流浪の中でも哲学に没頭し次々と著述を進めていたが、『道徳書簡』はそうしたなかの一著。題名が示すように、書簡形式で、ポンペイ出身の勤勉な上級公務員(当時はシチリア州総督)であったルーシーリウス Lucilius 宛たもの。
 文学と哲学に造詣が深かったルーシーリウスは、セネカに向けて、自分の時間を有効に使うと手紙で述べたが、引用文は、それに対するセネカの返答の一端。死は将来に起こることと多くの人は考えているが、これまで過ごしてきた人生の時は、すでに死が支配している。このことを理解し、今後の時間の使い方を見直すことで、人生の質を向上させることができる。時間の使い方だけは自分で管理できるのだから、時を正しく使うことによって、自分の日常生活を統整し、人生を送るようにしようと諭している。

時の神サトゥルヌス 手に持っているのはすべてを刈り取る鎌(2世紀, カピトリーニ博物館 蔵

▶比較◀

人生、(いにしえ)より、誰か死()からん。

文天祥(ぶんてんしょう)「過零丁洋(れいとうよう)」〔1279年頃〕)

■解説■
  南宋の忠臣・文天祥(1259年~1281年)が、南宋に侵攻した元軍に抵抗するが、敗北し捕らえられる。引用文は、北送される途中、零丁洋(香港九龍半島の海峡)でこの臣下が詠んだもの。昔から死ななかった者など一人もいない、ならば南宋への忠誠心(「丹心」)を保持して歴史書(「汗青」)に名を刻もうという決意を述べている。


◆運命◆ むごい仕打ち
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◆忍耐◆再生する不屈の力
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◆死◆灰と影
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◆死◆老若は問わない
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◆死◆いつ訪れるかわからない
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◆死◆必然
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