ジョージ・エリオット『アダム・ビード』1859年


アダム・ビード


 

設定

            1799年

イングランド
の村
ヘイスロウプ

登場人物と梗概

アダム・ビード Adam Bede: 腕利きの大工。慣例や通念を反芻して批判的な思考ができる男。自律心が非常に強い。父親は酒飲みでだらしがないが、母親はアダムに盲目的な愛情を注いでいる。アダムはヘッティに恋しているが、母親は猛反対で、二人が婚約してもその態度は変わらなかった。

セツ・ビード Seth Bede:Adamの弟。軟弱で、精神、技量ともにアダムに劣る。

マーティン・ポイサー Martin Poyser: 村で一番大きな土地を地主から借りている農家の主。アダムに家の修繕などを依頼している。

ポイサー夫人 Mrs. Poyser: 几帳面で家政にたけ、しっかりした善悪の観念をもっている。英国人妻の典型。

ダイナ・モリス Dinah Morris: ポイサー夫人の姪で、メソジスト説教師。聖者の気質と振る舞いは、作品冒頭で生き生きと描かれる。ポイサー家から離れた別な村に住んでいるが、説教をしにポイサー家のある村をときおり訪れる。アダムの弟に求婚されるが、それを拒絶。ずっと後に、ヘッティが子殺しにより国外追放の身となると、ポイサー家を頻繁に訪れるようになる。ヘッティ裁判でアダムの人柄を知った彼女はアダムに惹かれ、二人は結婚する。

ヘッティ・ソレル Hetty Sorrel: ポイサー夫人の姪で、ポイサー家に住みこんでいる。とはいえ農家仕事は苦痛に感じており、貴族との結婚により贅沢で安逸な生活をすることを夢見ている。実際、アーサーと恋愛関係に陥り、貴族夫人になれると本気で信じてしまう。アーサーの子を身ごもるが、アダムとの結婚が迫っているために、出征しているアーサーに相談すべく村を出奔する。アーサーを探している間に、出産し、自殺をしようとするができず、その子のみが死んでしまう。それが露見して裁判にかけられ国外追放の身となる。

アーサー・ダニソーン Arthur Donnithorne:地主ダニソーン家の長男。アダムが恋するヘッティと、階級差のために結婚できないと知りながら肉体関係を持ってしまう。それを偶然知った、友人であるアダムはアーサーに詰め寄り、アーサーは自らの非を認め、ヘッティと分かれる決断をし、村を去る。祖父の死を知らされたアーサーは出征先から村に一時戻るが、そこでヘッティ裁判を知り、彼女の救うために奔走する。その努力が実り、死刑判決であったはずが、国外追放刑となる。それでもアーサーは重い自責の念にかられ重病になる。

求婚:セツ・ビードからダイナ・モリスへ

1. I’ve prayed not to be blinded by my own desires, to think what’s only good for me must be good for you too. 
2. And it seems to me there’s more texts for your marrying than ever you can find against it. 
3. For St Paul says as plain as can be in another place, “I will that the younger women marry, bear children, guide the house, give none occasion to the adversary to speak reproachfully”; and then “two are better than one”; and that holds good with marriage as well as with other things.  
4. For we should be o’ one heart and o’ one mind, Dinah. 
5. We both serve the same Master, and are striving after the same gifts; 
6. and I’d never be the husband to make a claim on you as could interfere with your doing the work God has fitted you for. 
7. I’d make a shift, and fend indoor and out, to give you more liberty — more than you can have now, for you’ve got to get your own living now, and I’m strong enough to work for us both.

(Chapter 3)

■■【相手との共通土台構築】 
1. 自分の欲望に惑わされませんように、そして自分にとってきっと良いことは、君にとっても良いことのはずでありますようにと、これまで祈ってきました。

■■【相手の気に入るものを介して相手の心を翻す】 
2. 『聖書』にあたってみると、結婚に賛成する聖句のほうが、反対する聖句よりも多いのではありませんか。 
3. 聖パウロの言葉には、こういう明々白々なものがあります。「私は、若い女性が結婚し、子供を産み、家を導き、敵が非難する言葉のすきを与えないようにと、望みます」、そして続けて、「二人は一人にまさる」、これはいろいろなことにいえますが、結婚についてもそうです。

■■【二人は一つ】 
4. ダイナ、僕たちは心も考え方もひとつでなければならないのです。 
5. 僕たちは同じ主人に仕え、同じ賜物を求めて努力しているのですから。

■■【結婚受諾は相手の利益になる】 
6. だから僕は、夫になっても、君に何かをいって、神が君に定めた仕事をするのを邪魔するようなことはしません。 
7. 僕は、君が自由に活躍できるように、やりくりし、家の中であろうと外であろうと君を守ります。君は、今よりももっと自由になれるんだ。今は生活の資を自分で稼がなくてはいけないけど、僕は丈夫だから、二人分稼げるもの。

拒絶:ダイナからセツへ

1. Seth Bede, I thank you for your love towards me, and if I could think of any man as more than a Christian brother, I think it would be you. 
2. But my heart is not free to marry. 
3. That is good for other women, and it is a great and a blessed thing to be a wife and mother; 
4. but “as God has distributed to every man, as the Lord hath called every man, so let him walk”. 
5. God has called me to minister to others, not to have any joys or sorrows of my own, but to rejoice with them that do rejoice, and to weep with those that weep.

(Chapter 3)

■■【相手の意思・誇りを尊重】 
1. セツ・ビードさん、私への愛、ありがとう。誰か男性を、教徒の兄弟以上の存在と思ってよいなら、それはまさしくあなたでしょう。

■■【自分の立場の明白化、他の女性の可能性を提示】 
2. ですが、私の心は、結婚できる身ではないのです。 
3. 別な女性なら結婚することが正しく、妻となり母となることは、すばらしく、祝福されることでしょう。

■■【神が命じている】 
4. 「おのおの主から分け与えられた分に応じ、それぞれ神に召されたときの身分のままで歩みなさい」。 
5. 神は、人を(ぼく)するように私を召し出しました。自分が自分のために喜んだり悲しんだりするためではなく、人が喜んでいるならともに喜び、悲しんでいるならともに悲しむためです。



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