イングランドの結婚慣習:放蕩の末の破綻

   ねえ、あなた、私を随分うまく騙したわね。お願いだから、あなたのいけない子を受け取って下さい。

   こちらこそ、お願いだよ、お姉さん、ほっといてくれ。はっきりいうが、みんな無くなっちまったのさ。

◆解説◆

 床にはパイプ、ラケット、割れた酒びんがちらばり、中央の鵞ペンを刺したインク壺からはインクが床に滴り落ち、それをはさむようにして立つ壺は割れるかかけたりしている。壁にかかっているのはリュートとつば広帽子で恋する男性の象徴。ところが当の男性は、借金の債務文書の山に頭を痛めている。そこに男性の恋人がやってきて、不倫から生まれた赤ん坊(この時代の風習からミイラ巻で顔だけ出ている)を男性に認知するように懇願している。女は、「私を騙したのですから、この子を受け取ってください」というが、男性は、「ほっといてくれ。もうみんな無くなっちまったんだ」といって破産を盾にして取り合わない。

 この場合、男性が結婚を承諾しないかぎり、この子は当然、非嫡出子のままだし、女性は処女を失ったためにその過去を隠さないかぎり他の男性との正式な結婚はできない。