大学で英語を教えるにあたって留意したことが二つあります。
一つは英文を正しく読めるようになること。もうひとつは英語を実際に使えるような環境を整えることでした。
英文を正しく読める
今さら「英文を正しく読む」とは時代錯誤といわれそうですが、正しく読むことができれば、誤らずに書くこともできます。そして自分で書ける英語は、話せる英語です。書ける英語の質が上がれば、話せる英語の質も上がります。
では、私たちは「英文を正しく読む」ことをしていないのでしょうか。私たちが学んだ受験文法では、「正しく訳せる」ようになっても、「正しく読めるようになる」とはかぎりません。
たとえばused to と would はともに過去において「~したものであった」と受験英語で習います。また have to とmust とは、それぞれ「~せばならない」と覚えます。
しかし、それぞれのペアのうちには、意味上の大きな違いがあります。それぞれのペアの最初のものと後のものとは、共通した違いあります。それは、前者(used to, have to)は一般動詞であるのに対して、後者(would, must)は助動詞だということです。
なんだ、そんな違いかと思われるかもしれませんが、それは受験英語に毒されているからです。
助動詞は、動詞の前に付いて動詞の意味をふくらませると受験英語では教えてくれます。しかしそれだけなのでしょうか。そうであるなら、前者と後者はどう意味がふくらんでいるのでしょうか。
英語の基本は、客観的な文、すなわち一般動詞を使ったものが主流になります。そしてその客観の世界に、私の気持ち主観が入るとき、そこに助動詞が使われます。これが助動詞がある文と助動詞がなく一般動詞だけの文との決定的な違いです。
こうした二元対立が英文の中を走っていることに気づかないまま、英語を読み、そして場合によっては、英語を書き、話し、聞いたりしているわけです。これでは英語を介して触れる情報は、いつまでたっても日本語の世界に置き換えられた、日本語の別表現のままになってしまいます。
たしかに、外国語を学ぶことの目的は、その言語で伝えられている意味内容を母国語で理解できるようになること、つまり意味内容を運ぶ媒介に習熟することです。しかしこうした意味内容を媒介する道具としての外国語を学ぶことのほかに、無自覚のうちに当然視されている母国語が提供する見方・価値観とは別な見方・価値観を自分の思考回路に付け加えるという目的もあります。つまり、英語母語話者の感覚と同じか近い感覚に習熟するという目的もあります。
感覚を習熟する目的で編んだのが、
研く英語感覚: 二元対立軸ですっきり捉える英文法
です。
またその実践編の試みが
e メールで学ぶ書く英語
です。
また一つ戻って、道具としての英語を使いこなせるようになるためには、ちょうどピアノやテニスができるようになるのと同じく、短期間に大量の訓練が必要です。
こうした訓練はかつては少人数クラスやマン・ツー・マンでの対面授業によってのみ可能でした。しかし21世紀の今、クラウド上の教材にいつでも好きなときにどんな場所でもアクセスできるようになりました。そしてクラウド上の教材を通じて、こうした訓練を行える教材がいくつも開発されました。
私が所属していた大学では、こうしたe-learning教材を課して、英語授業時間外に、英語授業内容とは別枠で学生は英語の訓練をしました。訓練の結果、学生はどういう形で訓練をすると英語熟達度があがるのかかが、調査からわかってきました。
学校にe-learning教材を導入し、学生に訓練参加をしてもらう。
eLearning の導入・管理・効用
ここでは、学内にeLearning教材を導入するにあたっての組織・仲間作り、教材の課し方(学習管理)、そしてもっとも肝心な効果的な学習スタイルが論じられています。
英語を実際に使える環境
一方しばしば言われるように、語学というのは使わなければ、錆びます。この時の「使う」という意味は、日本の学校教育の文脈では、通常は読み聞くということに搾られてしまいます。しかし言葉である以上は、話す書くという技能も「使う」ことになります。
ところが日本ではそもそも話す・書くという技量を発揮できる状況がほぼありません。これを、日本では日本語ですべての日常生活を送ることができるから、植民地化していなくてすばらしいと喜んでばかりはいられません。なぜならグローバル化が進み、内向きから外向きに目を向けなければいけない状況にあるからです。日本語で通用するだけの環境にどっぷりと浸っていては、世界に開かれていくことになりません。
グローバル化はグローバル主義と区別する必要があります。グローバル主義というのは、GAFAに代表されるような企業が国境をまたいで市場規模を拡大し、地場の経済生態系をこわして、経済上の利益を得ることです。これに対してグローバル化とは、これまでアクセスできなかった多くの国の様々な人たちの意見を受信し、またその意見への自分の反応を発信し、国境をものともしない情報の共有・交換が可能になったことをさします。
共有・交換がスムーズに行えるようになるためには、グローバル化した世界という混沌地帯にいきなり入っていくのではなく、まず安心・安全な地帯での修練が必要です。英語の読む・聞く・書く・話すという4技能を使わざるを得ない、それでいて安心してそういう技能を試せる環境づくりが必要です。
その環境の一つの試みが、テレビ会議システムを使ったアジアとの学生交流です。
テレビ会議によるアジア学生間交流
これは日本人の学生グループがアジアの他大学の学生グループとテレビ会議システムを利用して文化についての意見交換を行うというプログラムです。テレビ会議システムというのはZoomや Skype の会議システムよりも少し規模の大きなものと考えてください。相手は英語でなくては通じませんので、英語で話し・聞かざるをえません。また相手に提示する資料も英語で書かなくてはいけません。そして相手の資料はもちろん英語で書かれていますから、英語を正しく読めなくてはなりません。4技能を使わざるを得ない環境が用意されたわけです。
ところがここで問題になるのは、そもそも教員自身にこのような文化交流の指導ができるほど英語力があるのか、大学の教員評価がこのような環境整備に対して本音で積極的な価値を見出すのか、さらにはいったい何人の学生がこういうプロジェクトに真剣に取り組むのか―― といったように、教員自身がプロジェクトに踏み込むことに対する内的不協和音です。
学校で英語を教えている教員で、英語を教えることそのものにどこか自分がしっくりとはまらない感じを持っている人が、具体的にどのような方法をとれば、その内的不協和を解消できるのか、その方法の根拠と実際のやり方を説明したものが、
英語教員のためのリフレクティブ・プラクティス(自己研修)
です。
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