◆金◆ 金がすべて

Et genus et formam regina Pecunia donat.

(詩)エート・ゲヌス・エート・フォールマーム・レーギーナ・ペクーニア・ドーナト
(散文)エト・ゲヌス・エト・フォルマム・レーギーナ・ペクーニア・ドーナト

金の女王ペクーニアは、家柄も容姿も授けてくれる。

(ホラーティウス『書簡詩』1巻6篇37行)

■解説■
共和制から帝政へと政治社会体制が激変してまもない紀元前後の時期、ローマ社会には、資産獲得への欲望が渦巻き、大きな資産がその人の幸福を保障するという通念が浸透していた。資産があれば、出自が低くとも高額持参金付きの娘を嫁にして家柄を高めることができたし、自らが保護者(パトローヌス)となって大勢の被保護者(クリエーンス)を抱えて社会を悠々と渡り歩くことも可能であった。そして女性であれば、豪華に着飾り、エステにもふんだんに金を使い、美貌があるかのように見せかけることもできた。
 こうした風潮に対して、ホラーティウスは引用文のような皮肉をぶつける。そして教えとして、資産による世間的利得は、人間を本当には幸せにしないのだから、精神にかかわる徳、特に中庸を重んじて生きるバランス感覚を身につけるのがよいという。 ただし出典の「書簡」を書いていた頃、ホラーティウスは、マエケーナスという当時の最大の富豪を保護者として持ち、この富豪から荘園まで授かり安泰の生活を送れた。

凱車に乗って進む金の女王 (フィリップ・ハレ (Philip Galle) [1563]銅版画 ワシントン・ナショナル・ギャラリー 蔵))

▶比較◀

金あれば、高き位にのぼり、よく縁邊(えんぺん)をとりよき、智職になり。神道を知り、名高き侍になること、眼前なり。

(『人鏡(じんきょう)論』[1503])

■解説■

金を使えば、高い役職につくことも、血筋の良い家柄の人との結婚もできるし、博学な仏教者だともてはやされる。また神道に精通しているとみなされ、達人の侍だという名声も得られる。金がこうしたことをもたらすのはもはや自明のことだと、『人鏡論』の奇想天外な主人公・道無斎はいう。道無斎(商人の象徴)は、儒者・仏者・神道家の三人の論を、金がすべてという主張で論破する。『人鏡論』は著者不明の偽作だが、江戸時代には人気を博し、『金銀万能丸』(1687)や『金持重宝記』(1694)という書名で流通した。


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