◆分不相応の誉◆
Maiores pennas nido extendere.
マイオーレース・ペンナース・ニードー・エクステンディッセ
自分の巣には大きすぎる翼を広げる。
(ホラーティウス『書簡詩』1巻20篇21行)
■解説■
解放奴隷を父とする詩人ホラーティウスは、自らが書いたこの『書簡詩』を、奴隷の身分から解放される少年にたとえる。そしてこの本が公になるにあたり、主人の下から離れて世の中に出ていく少年が、主人の人となりを説明するように、この本がその著者であるホラーティウスの人物を紹介するという。その紹介の一端がこの引用文で、「自分の巣」とは自分の父が奴隷身分であったこと、そして「翼を広げる」とはこの本を通じて有名になること。つまり、その卓抜した才能ゆえに、分不相応に著名になることを引用文はあらわしている。

▶比較◀
おおよそ人、少年英気の時は文章議論赫々浩々、分外の誉を得るものなり
(吉田松陰『講孟余話』巻4第17章[1856年])
■解説■
若くて元気にあふれている時期の人が行う議論も書く文章も、熱がこもっていて勢いがよく、そのために、実力には不相応な名声を得ることがあるので、自惚れることのないようにと戒めている。ホラーティウスはこの詩が公になった紀元前20年には45歳で、「少年」(ラテン語でアドゥルスケンティア)ではなく脂ののりきった「大人」(アドゥルトゥス)で、ローマ一の大富豪の保護を受け、初代皇帝アウグストゥスにも認められていた。松陰は、引用文に次のように続けている。「四十五十、学熟し識走り、老成沈着」の境地あってこそ、「真の品目」がしっかりと定まる(「40, 50と齢を重ねて学問も熟し、識見も定まって、老成沈着の味も加え…その人の心の値打ち」が決定する[和田健爾編著『講孟余話: 現代語訳』 1941年])。
