◆逆境◆ 最悪の中の光

sors autem ubi pessima rerum,
sub pedibus timor est securaque summa malorum.

ソルス・アウテム・ウビー・ペッシマ・レールム/スブ・ペディブス・ティモル・エスト・セークーラケ・スッマ・マロールム

とはいえ、運命が最悪の事態を迎えているなら/恐怖は足蹴あしげにされ、いまより悪くなることは恐れるに足らない。

(オウィディウス『変身物語』14巻489-490行)

■解説■
  トロイア戦争で勝利を得たギリシア連合軍だが、軍の有能な将ディオメーデースは、戦争中にウェヌス女神を遅い傷を負わせたために女神からの神罰で、帰還する際に漂流の憂き目に合う。その漂流に終止符を打つように懇願する同船の兵士たちに対して、気性の荒い、ある一士官が兵士たちに向かって、まだ頑張れると、とばした(げき)。頑張れるのは、最悪の事態に遭遇してきたなら、これ以上悪い事態に出会うのではという恐れはもう抱く必要がないからというもの。
 この檄はさらに続き、ウェヌス女神のこの仕打ちを耐え抜けば自分たちにとっての勲章となると大言壮語する。女神を軽んじる檄に女神は怒り、この士官をはじめ兵士たちを、白鳥のような鳥に変身させてしまう。つまり皮肉にも、さらなる最悪の運命が兵士たちを待っていた。

ジョゼフ=マリー・ヴィアン「ディオメーデースに傷つけられたヴェヌス女神がイーリス女神に助けられる」(1775年, コロンバス美術館 蔵)

▶比較◀

とこしなへに違順(いじゅん)につかはるることは、ひとへに苦楽のためなり

(吉田兼好『徒然草』第242段[14世紀後半])

■解説■
 人はいつも逆境と順境にもてあそばれるが、それはなぜかといえば苦しみから逃れ、楽がしたいからである。楽をしたいという欲求(名誉・性・食)には際限がなく、そんな欲求は追求しないに限る。これは隠棲者であるからいえることで、世間で生きる人間には自己承認願望を捨てることは至難の業。