お歯黒 (明治の外国人による評価)

¶ティリーが有夫の女の歯は艶々と黒いと言うのはむろんお歯黒のことである。出島蘭館員の記録以来有名なこの風習に対しては、彼らは異口同音に嫌悪の念を書きつけている。

¶たとえばオールコックには、お歯黒をした女の目は「まるで口を開けた墓穴のように」見えたし、スエンソンは「唇を開いて気持の悪い目の中を見せられるたびに、思わず後退り」せずにはおれなかった。スエンソンによれば、女たちもその醜さに気づいていて、若い女の中には、笑うとき黒い歯を隠そうとして「気の毒なくらい奇妙な具合に唇を歪めている」ものもいた。日本に関する著述の中には、眉毛を落し歯を黒く染めるのは女性の魅力を高めるものだと説明しているものもあったが、オリファントにはそれは信じられなかった。(348ページ)

¶彼[スエンソン]の見るところでは、娘は自由気ままを満喫していて、その「優雅なる暇つぶしは、笑うこと、おしゃべり、お茶を飲むこと、煙草をふかすこと、化粧、それから、何度もある祭りに参加することである」。しかし、「結婚とともに束縛のない生活は終」る。「結婚するや否や女は妻の仕事、母の仕事に献身することになる」。すなわち、落された眉とお歯黒は「それまでの虚栄心と享楽好みを完全に捨て去ったことの目に見える証し」なのである。(350ページ) 

上記 抜粋元: 渡辺京二. (2005). 逝きし世の面影.  平凡社ライブラリー

では、女性の外国人はお歯黒にどのように感じただろうか。英国人イザベラ・バードは、『日本奥地紀行』のなかでやはり、「醜い」と述べている。

¶「馬子[馬を挽く道案内]の顔立ちは仕事の意気込みが刻まれ、とてもよい気立てなのだが、お歯黒でわざわざ醜くしてあった」(Bird, Isabella L. (1941) [1880]. Unbeaten tracks in Japan. London: John Murray, 84)