◆理想的人間◆ 泰然自若
Est animus tibi/ rerumque prudens et secundis/ Temporibus dubiisque rectus.
(詩)エースト・アニムース・ティビー/レールームケ・プールーデーンス・エート・セクーンディース/テームポリブース・ドゥビイースケ・レークトゥス
(散文)エスト・アニムス・ティビ/レールムケ・プールデーンス・エト・セクンディース/テムポリブス・ドゥビイースケ・レークトゥス
あなたの心は、事態にたいして思慮深くあり、順境にあっても不確かなときにあっても正しくある。
(ホラーティウス『歌章』4巻9歌34-36行)
■解説■
ローマ社会における人間の理想的な気概についてを述べている。その人自身がどのような事態にたいしても思慮深く前後左右を見て総合的な判断を下し、またどのような状況に遭遇しようともその状況に的確な態度がとれることである。 この歌の言葉は、執政官マルクス・ロリウスの人格を讃えて述べられたもの。ロリウスは、この詩が書かれた十数年後に、初代皇帝アウグストゥスの孫ガイウスの顧問官として、東方(パルティア・アルメニア)の平定の任務に随行した。そしてその任務中に、でっちあげの収賄罪に問われたとき、「首都ローマに召還されて裁きの場に引き出されるよりも、他国での自死を選んだ」(塩野七生『ローマ人の物語 16 パクス・ロマーナ[下]』新潮文庫41ページ)。

ガイウス・カエサル (帝政期 大英博物館 蔵)
▶比較◀
君子は安楽の時に、憂患(ゆうかん)を忘れずして身を慎み、憂患の時はまた安楽を得べきことを知りて、泰然としてその心を動かさず。
(太宰春台『経済録』[1729])
■解説■
順境にあっても、逆境になりうることを頭の隅においてはしゃぐことはないし、いざ逆境となってもいずれ順境になることを思い描いて、あわてふためかず、泰然自若としていられる。
