◆恋・愛◆  拒まれたので悲しくなって、愛が募る

Amor crescit dolore repulsae.

アモル・クレスキト・ドローレ・レプルサエ

拒まれたので悲しくなって、愛が募る。

(オウィディウス『変身物語』3巻395行)

【解説】

  山の妖精エコーは、女神ユノーから女神を騙した罰として、相手の話の末尾部分だけ声に出せるようになってしまった。ある時、美貌の青年ナルキッススを見つけて一目惚れし、しばらくは隠れていたが、ついに我慢しきれずに飛び出して青年に抱きつく。誰にも恋心を抱かないこの青年から、手を放し、自分を自由にしてくれと、即座に拒まれる。エコーは手を放し、森に再び隠れ、洞窟で暮らすようになるが、ナルキッススへの恋心は募るばかりであった。愛を拒まれて悲しくなり、その悲しさゆえにかえって恋心が高まることを、引用の言葉は教えている。そしてエコー(こだま)は、そのかなわぬ恋から憔悴し、ついに声だけになったという。

【比較】

ともすれば振られ候、身は、さて棒か茶筅(ちゃせん)か。

(『宗安小歌集』(江戸時代初期) 95)

【解説】日本の小歌(民謡)では、相手に言い寄っても振られる自分を、棒や茶筅に自嘲的にたとえられている。

エコーを拒むナルキッスス (ポンペイ壁画)