◆戦争◆ 男性を喜ばせる戦争

Arma impia sumpsi.

アルマ・インピア・スームプシー

不敬な戦争を私は起こしてしまった。

(ウェルギリウス『アエネーイス』12巻31行)

■解説■
  イタリア半島のラティウム王国の支配権をめぐり、異国トローイアからの新参者アエネーアースがイタリア在来の英雄トゥルヌスと争う。この争いの発端は、ラティウムの王ラティヌスの一人娘であるラーウィーニアがトゥルヌスの許嫁(いいなずけ)であったにもかかわらず、王がその約束を反故(ほご)にして、アエネーアースの妻にしようとしたことであった。そもそも王は夢で託宣を受け、娘は異国の人の妻になると告げられていたが、女王からの説得、トゥルヌス自身の懇願に負けて、許嫁の約束をしてしまった。その約束を結局は反故にしてしまったことを、王がトゥルヌスにむかって(わび)たときの言葉が、引用の文。この引用は、「不敬な武器を私は握ってしまった」とも訳せる。なお「不敬な」のは託宣を下した父祖と神々に対してであり、王は託宣に従わなかったために、戦争を起こしてしまったことを悔いている。なおこの後、トゥルヌスはアエネーアースと一騎打ちをし、トゥルヌスは敗れ、戦争は集結し、託宣どおりにアエネーアースはラーウィーニアと結婚する。

ジャコモ・デル・ポー「アエネーアースとトゥルヌスの戦い」(1700年頃)

▶比較◀

(しゅ)は怒りを(もっ)て師を(おこ)すべからず。(しょう)(いきどお)りを以て戦いを(いた)すべからず。

(『孫子』火攻篇 [前500年ごろ])

■解説■
 君主は、生じた事態に怒って軍を動員すべきではなく、また将軍も憤激に身を任せて戦闘を始めるべきではない。戦いにあたって、君主は熟慮すべきであるし、将軍は身を常日頃よく修めて正しい判断をしなくてはならない。つまり指導者たるものは、一時の感情にかられて開戦に踏み切るべきではないと諭している。孫子にとって「不敬な戦争」があるとすれば、それは間諜(スパイ)からの情報を精確に分析して作戦を練らないことであった。孫子は、間諜のすぐれた用い方は「神紀」(用間篇)だと述べている。なおアエネーアースは常時、沈着冷静な将であったが、トゥルヌスは血気盛んな猛者として、ウェルギリウスは描いている。