◆詩◆ 規則と推敲

Qui legitimum cupiet fecisse poema,/Cum tabulis animum censoris sumet honesti.

クィー・レージティムム・クピエト・フェーキッセ・ポエーマ/クム・タブリース・アニムム・ケーンソーリス・スーメト・オネスティー

規則にのっとった詩を創ろうとする詩人なら、書字板とともに清廉の監督官の魂も受け入れるだろう。

(ホラーティウス『書簡詩』2巻2篇109-110行)

■解説■
 二流の詩人は自画自賛し、また周囲からの適当な褒め言葉に興じて詩を書きまくるが、そのような二流の態度に対して、一流の詩人がすべきことを教えている。まず自分が選ぶ詩の形式(韻律)が内容(たとえば風刺)にそっているといった詩の規則に従うこと。次に、推敲は手加減せずに行うこと――この二つが最低の条件だと述べている。
 ここで知っておきたいのは、書字板(タブラ)監察官(ケーンソル)。書板は、17世紀英国の哲学者ジョン・ロックによってよく知られる「タブラ・ラーサ」(白紙状態)のあのタブラ。蝋を薄く塗った木製の板の上にペンでひっかき書いた。書き終わり、もう一度使うときには、ろうを落とし、新たに蝋を塗って「タブラ・ラーサ」(滑らかにされた板)にする。つまりここでは、詩人が詩を文字として書きつけること。
 監察官というのは、ローマの官職の中でも最高の名誉職。職務としては、戸口調査(事実上の徴兵検査)、不的確元老院議員の追放と新議員の追加、風紀取り締まり、公共建築物の造営などがあった。ここでは詩人が詩を推敲するときに、自らを欺くことなく厳格に自分の詩を批評し練り上げていく態度を述べている。

監督官のもとで市民登録をする市民 「ドミティウス・アヘノバルバスの祭壇」(2世紀後半 ルーブル美術館 蔵)

▶比較◀

(ぶん)(つく)るに三多有(さんたあ)り、(かん)()(さく)()商量(しょうりょう)()なり。

(ちん)師道(しどう)『後山詩話』〔11世紀初頭?〕)

■解説■
  これは、欧陽脩(おうようしゅう)〔1007-1072年〕の言葉で、詩作をするうえでの心得として、「三多」があるとする。看多は、多くの詩を読むこと、做多は多くの詩を作ること、商量多は数多くの推敲をすること。なお欧陽脩には「三(じょう)」という、詩作をし商量多をするのに適した場所をいいあらわした言葉もある。「馬上、枕上、厠上(しじょう)」で、馬に乗っているとき、寝床に入っているとき、トイレに入っているときである。


◆死◆恐怖を抱かない
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◆不幸◆現状に満足できず他を求める
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◆運命◆人をもてあそぶ女神
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◆無秩序◆混沌
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◆無秩序◆自然発生と四大
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◆運命◆ むごい仕打ち
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