◆死◆必然
si figit adamantinos/summis verticibus dira Necessitas/clavos, non animum metu, / non mortis laqueis expedies caput.
シー・フィーギト・アダマンティノース/スムミース・ウェルティキブス・ディーラ・ネケッシタース/クラーウォース・ノーン・アニムム・メトゥー/ノーン・モルティス・ラクエイース・エクスペディエース・カプット
おそるべき<必然>が屋根の天辺に金剛の鋲を打ちこむときには、君の心は恐怖から、君の頭は死の輪縄から解き放たれることはないだろう。
(ホラーティウス『歌章』3巻24歌5-8行)
■解説■
ここでいう<必然>とは、死から逃れられない運命のこと。鋲とは、ここでは、邸宅の天辺に魔よけとして打ちこんでおくもの。その鋲が、むしろ逆に<必然>によって打ちこまれ、その邸宅の住人が死に定められたことの証明として機能してしまっている。それは、どんなに金持ちであるとしても、また邸宅にどんなお守りがあろうとも、死は必ずやってくることを象徴している。死は必定と考え出すと、自分はやがて死ぬという恐怖にとらわれてしまうと、ホラーティウスは告白している。
▶比較◀
事の必至なるものは死なり。
(司馬遷『史記』孟嘗君伝)
■解説■
戦国の四君子のひとり孟嘗君は、追放された自国に復帰することになった。復帰にあたり、裏切り者に復讐する意図があるのかと、自国の賢者から孟は問われ、そうだと態度で示した。それに対して賢者は、孟に対して「事に必至なる有り、理に固然たる有り」と謎掛けをする。意味を解さない孟に、賢者は、前者について、「必ず起こることとは、死ぬことです。何人も死からは逃れられません」ということだと教える。そして後者は、「富者には人が寄り添い、貧者からは人は遠ざかる」という意味だと説明する。これを聞いて、孟は、裏切り者もいずれは死に、また自分が王から追放者の身分に落ちたのだから裏切られるのも仕方がないと悟り、復讐の念を絶った。