◆善良◆ 善良の条件

Oderunt peccare boni virtutis amore.

オーデールント・ペッカーレ・ボニー・ウィルトゥーティス・アモーレ

善良な人間は、美徳への愛から罪を犯すことを嫌う。

ホラーティウス『書簡詩』1巻 16篇52行

■解説■
 詩人ホラーティウスが生きた時代、ローマは共和制が終わり、帝政へと向かう体制大転換の時であった。体制大転換期には、政治・社会を含めた世界のありよう全体についてのこれまでの既存の価値観が揺らぐ。その中にあって奴隷のなかには逃亡、殺害、窃盗などの行為に走る者もあらわれたが、もちろんそういう行為にいっさい手を染めない奴隷もいた。しかし詩人はいう、そういう奴隷は立派なようだが、狡猾な狼が罠を用心深く避けるのと同じで、罪を犯して後で罰せられることを避けようとあえて犯罪に手を染めないだけなのだと。罪を犯してもわからない、ごまかせる、そういうチャンスがあれば、手を染めていない奴隷も平気で悪いことをする。これに対して真に善良な人間とはとして、ここに引用した言葉を述べる。
 政治・社会が何らかの事情で大きな変化をし、従来の価値観が揺らぐとき、この名言はくりかえし口ずさまれる。たとえば、第一等国スペインの無敵艦隊を破り、一躍、欧州の列強となり、経済的繁栄を謳歌した16世紀末から17世紀初頭のイングランドでは、詩人ベン・ジョンソンがこれまでの価値観(主従間の忠誠と信頼)が金銭への欲望によって崩れていくのを嘆くと同時に、善良な人間の姿をこう述べている。「善を愛するがゆえに悪を憎む人は/罪ゆえの罰を恐れて我慢する人よりも/はるかに月桂冠をかぶるに値する。」(「エポード」87-89行)。

酒瓶を運ぶローマの奴隷たち (チュニジア 2世紀頃)

▶比較◀

郷原(きょうげん)は徳の賊

(『論語』陽貨および『孟子』尽心・下 前4世紀後半)

■解説■
 郷原とは、郷里で評判を獲得しようと目論み、外面的に善良を装う人のこと。内心と外面の振る舞いとの間に齟齬があるような「善良」な人間は、人としての値打ちもないし、徳の本来の姿を汚している。