◆分際◆ 分をわきまえず些細な結果になる

Parturient montes, nascetur ridiculus mus.

オムネース・イーグノースパルトゥリエント・モーンテース・ナースケートゥル・リーディクルス・ムース

山々に陣痛が起こって、笑いものになるネズミが生まれる。

(ホラーティウス『詩論』139行)

■解説■
 『詩論』は詩人ホラーティウスの代表作というべきものだが、アリストテレスの『詩論』のような論文ではなく、ホラーティウスが執筆した数多くの書簡詩のうちのひとつがこのように古来から呼び習わされているだけ。全体はおおまかに詩(抒情詩・叙事詩・演劇)に共通する原則、演劇執筆に関し注意すべきこと、詩人の性格や心の持ち方の三つからなっている。
 引用箇所は、詩の原則に関わる箇所からで、叙事詩を書くときの注意を述べている。冒頭を仰々しい言葉で書いてしまうと、まるで動かないはずの山がいくつも動き出してなにか壮大なことが起こるかのような印象を聴き手に与えてしまう。またそのような書き出しにすると、書き手のエネルギーや技量がもたず、後が続かなくなり、壮大な叙事詩ができあがるはずだったのに、聴き手から笑われてしまうようなとるにたらない詩しかできない。
 なお、ホラーティウスよりも少し若い作家フェドゥルスは、ギリシア語で書かれた『イソップ寓話集』を翻案した『寓話』のなかでは次のような話にしている。「ある山に陣痛が襲い、恐るべきうめき声をあげ、その地域では大いに期待が盛り上がった。ところが一匹のネズミを産んだだけであった。この話は、大いなることをすると脅かしておきながら結局何もしない、そういう君に宛てられている。」(4巻22話)。

クルミをかじるネズミ (117-38年頃, ヴァティカン博物館 蔵)

▶比較◀

大山鳴動(めいどう)して鼠一匹

(諺)

■解説■
  これは中国のことわざではなく、ホラーティウスのこの引用文の訳。騒ぎは大きいが、実際には取り立てていうほどのことも起こっていない事態をさす。「鳴動」(大きな音をたてて揺れ動く)よりも、「胎動(たいどう)」(母胎内で胎児が動くこと)の方が原文に近い。また「鼠」を「こっけいなハツカネズミ」と日本では説明されることがあるが、取るに足らない笑いものの(たと)え。


❖言葉❖ 文体は生き方の反映
Read more
❖豊かさ❖ 満足する技法
Read more
❖豊かさ❖ 向き合い方が肝心
Read more
❖豊かさ❖ 執着からの自由
Read more
❖豊かさ❖ 豊かさの極地
Read more
❖豊かさ❖ 満ち足りた心が必要
Read more