◆理想的人間像◆ よく働く

Parvola, nam exemplo est, magni formica laboris

(詩)パールウォラ・ナーエークセムエーンプレースト・マーグニー・フォールミーカ・ラボーリス

(散文)パルウォラ・ナム・エクセムプロー・エスト・マグニー・フォルミーカ・ラボーリス

小さな体で大変な仕事をする蟻はそういう例だ。

(ホラーティウス『風刺詩』1巻1歌33行)

■解説■
 勤勉な人は老後に十分な蓄えを得ようとして、現在の仕事や運命に不満をもちつつ耐えている。それはちょうど夏の間にせっせと働き、冬になるとその蓄えで生きていく蟻のようなものだ。もっとも蟻は冬の間は休むわけだが、人間は四季、自然の障害、戦争などに関係なく、働けなくなる前に蓄えを少しでも大きくしようと働き続ける。そんな人間に対して、詩人は教える。蟻のように将来のことを見越して働くことは必要であるが、それと同時に、本人が少欲知足でなくてはならないと。蟻の働きは、17世紀になるとプロテスタントの倫理観や政治観が投映される。「倹約な蟻、未来を予見し小さな胸に安き心を収め、これから後にはおそらくは正しき平等の模範、共同社会という評判をもたらす良族」(ミルトン『失楽園』7巻485-489行)。こうした全面的なプラスイメージが、20世紀まで引き継がれていく。しかし貧困から脱出し豊かさを享受できる21世紀になると、「アリはいつ遊ぶことができるのだろう?」と疑問が投げかけられ、「自分が何をすれば幸せになるかを知り、その経験に惜しまず金を使うことだ」という蓄財消費の勧めへと変化していく(ビル・パーキンス『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』児島修訳)。

口に麦をくわえたアリの沈み彫り細工 (碧玉 1-2世紀 個人 蔵)

▶比較◀

大黒柱を蟻がせせる。

(諺)

■解説■

「せせる」は虫が刺すことで、蟻に刺されても人間は大した痛みを感じないし、ましてや大黒柱はなんら傷まない。そのように蟻の働きは、たいして力のない者が大仕事をしようとして失敗することにたとえられている。


❖言葉❖ 文体は生き方の反映
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❖豊かさ❖ 満足する技法
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❖豊かさ❖ 向き合い方が肝心
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❖豊かさ❖ 執着からの自由
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❖豊かさ❖ 豊かさの極地
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❖豊かさ❖ 満ち足りた心が必要
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