◆二元対立の英語感覚◆《個 vs. 全体集合》a/an 一般のなかのひとつ:have a smoke と take a walk


have: 自分がコントロールできる範囲内にある
take: 自分の領域内に肉体的努力をともなって意図的に取り入れる
have a 名詞(動作):気持ちを受け取る
take a 名詞(動作):意志を働かせる

“May I smoke?” は “May I have a smoke?” の言い換えだと教えられます。しかし前者は「吸ってもよいでしょうか」で、これに対してhave + a+ 名詞(動作)の形では、「一服やりたいのですが」となります。この違いはどこから出てくるのでしょうか。 
 まず動詞have は、動詞smoke のように、ある動作をあらわす単語ではありません。何かが自分の近くにあることをあらわしています(図1)。ただし近くにあるというだけではこの動詞の語義を十分につかんだことになりません。というのは、「近くにある」ということは自分がコントロールできる範囲、自分の支配域内にあることまでも含んでいるからです。

haveの基本イメージ (コンパスローズ辞典)

 自分の支配領域という視点があると、「ダチョウには羽がある」は、下記のどちらの文が正しいかといえば、

(1 a) Ostriches are wings.
(1 b) Ostriches have wings.

ダチョウは自分の体という身近な場所に羽をもっていて、自分で羽を動かせるので、(1 b)であることがわかります。

 「木星には合計95個の衛星がある」は、
☠ (2 a) Jupiter is ninety-five moons in total.
(2 b) Jupiter has ninety-five moons in total.

衛星は、木星の引力という支配領域内にあるので、日本語では「ある」でも英語ではhaveになります。

 さらに、「喉が痛い」は  
☠(3 a) My throat pains me.  
 (3 b) I have a sore throat.

喉は私の体内にあり、しかもうがいをするなりして私は喉の状態をコントロールできます。

 haveの目的語が、have の主語の支配領域にあることがわかりました。では目的語と主語にはどのような関係があるのでしょうか。それは、(3 b) が示すように、目的語が主語に対してある感情を誘発することです。(3 b) では腫れた喉という目的語が、その痛みを主語に経験させ、主語に不快感という気持ちを起こしています。 
 主語が目的語の事態を経験し、主語にある気持ちが生じるというこのhaveの意味合いがわかると、 “May I have a smoke ?” がどのような場合に使うかも分かってきます。たとえば、長時間の会議でヘトヘトに疲れ、たばこを吸って気持ちを和らげたいようなときです。これに対して、部屋に入ってきた相手との話が長くなりそうなので、たんに相手からの許可を求める場合には、 “May I smoke ?” になります。ただし相手からの話が、ずいぶんと難しい問題についての相談で、こちらとしてはゆっくり考えたくなったら、“May I have a smoke ?” になります。 
 また「このペット犬をなでてもいいですか」は、 “May I pat this cute dog?” と “May I have a pat of this cute dog?” の二つが可能ですが、動詞patを使うのであれば、かみつかないですよね、大丈夫ですよねという意味合いになりますが、動詞 haveを使えば、かわいい犬をなでて、自分が癒やされたいという意味合いになります。
ロメオとジュリエットの元祖であるピラマスとシスビーが、互いに互いを壁(正確には塀)の小さな穴を通して見たというなら、
Pyramus and Thisbe looked at each other through a tiny hole in the wall.

しかしこれでは素っ気なく、二人が見つめ合うことができたことで愛の気持ちが高まったわけですから、
Pyramus and Thisbe had a look at each other through a tiny hole in the wall.

になります。

 そしてhave + a+ 名詞(動作)の a は、a smoke, a pat, a sore throat の例からもわかるように、その場に居合わせた人が一様にこれと共通して特定できるものではありません。相手には私がこれから吸うたばこがどんな銘柄かもわからず、相手はどんななで方を私がするのか不明で、喉の痛みを相手は感じることができません。いろいろな銘柄、さまざまななで方、数々ある喉の痛み― a は、こうした多くあるなかのひとつということになります。a は、たしかに個をあらわしていますが、特定された個別のものではなく一般なもの(全体集合)に属し、全体集合のなかのある一つということです。

 最後に、have + a+ 名詞(動作)に対して、take a bathやtake a walk のような take + a+ 名詞(動作)がもつ違いです。takeの基本的な意味は、自分がコントロールできる領域外にある対象を、自分の領域内に肉体的努力をともなって意図的に取り入れるということです。
 散歩に行くというときには、take a walk も have a walk も、どちらも使えますが、状況は異なっています。どんなにつらくとも、夜明けと夕方にいつも必ず散歩をしているというなら、散歩を意志の力で自分がコントロールできる領域内に取り入れて、なおかつ肉体的努力がそこにはともなうので、  
I take a walk at dawn and sunset everyday.

になります。ところが、夕食がまだできていないから、できる前に家の辺りをちょっと散歩して、リフレッシュしようというなら、
I’ll have a walk around the house for a while.

家周りの散歩は自分の身近にあってできることですし、散歩をして気分がよくなるので、この場合は have になります。同様の使い方の違いは take/have a bath についてもいえます。

そして take a 名詞(動作) でのtakeの意志の力というのは、もう少し正確にいうと、あらかじめその名詞が示す動作をしようと考えていて、それをやろうと意志するということです。ですから、思い切って跳ねたり、飛び込んだり、進んだりするときには、take a leap, take a dive, take a step というようにtakeを使いますが、あらかじめ考えて生じる意志の力とは無関係なhaveは使えません。逆に、咳をするや泣けてくるというときには、あらかじめ考えて生じる意志の力が働くわけではないので、takeは使えず、have a cough, have a cry になります。また病気も同じで頭痛や心臓病は、have a headache, have a heart problem になります。


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