◆二元対立の英語感覚◆支配領域《内⇔外》Part4 動名詞になりかわる to不定詞
consider +動名詞, know +that節は,いずれも to不定詞に取って代わられる
支配領域外にある事柄を表現するときには、動名詞を使うという原則に立つと、なぜconsider+動名詞という形になるのか理解できます。
considerは、「熟考する」という訳語が与えられているように、考えにのぼる対象は考える主体から切り離して、客体的に眺めて注意深く考えることになります。考えられている対象が考える主体と密着せずに、一般的な事柄として抽象化されて、主体が外から眺める感じなので、支配領域外にあると意識されるのです。しかもconsiderに続く動名詞が示す内容は、ほぼ決定済みで、考えている主体が、今から変更するのが難しいことなので、なおさら支配領域外にあると感じられるのです。
(1)
(a) 彼は、今の仕事やめて自分の会社を起こそうと考えている。
(b) He is considering quitting his job and starting his own business.
仕事をやめることも、新会社を作ることも、自分で選択できることなので支配領域内のことのはずです。しかし退職・会社設立について、私心がもたらす偏見に左右されないように、一般的なこととして外側から客観視する対象として熟考します。しかもこの発言の時点では、本人は退職・会社設立を熟考の末にほぼ決まりの事柄として意識しています。そうした理由から、支配領域外を示す動名詞が使われます。
ところで、次のような例では、考えられる対象は一般的なこととして、考える主体から切り離されるでしょうか。
(2)
(a) 彼女は、バカンスに行ってゆっくりくつろぐことを考えている。
(b) She is considering going on a vacation to relax and unwind.
一ヶ月の海外旅行なら、綿密な計画、準備、予約などが必要なので(2 c) のような言い方は正しいといえます。しかし考えている対象はそうであっても、実際にホテルで食事をしたり海岸で寝そべるにいる自分の姿などその内容は考える主体と密着しています。そしてバカンスに行くのは、突き詰めれば考えている主体が決定することですから、主体の支配領域内にあるともいえます。そのためなのか、consider to不定詞の形も使われます。
(c) She is considering to go on a vacation to relax and unwind.

そして近年では、このconsider to不定詞の形が多出します。
(3)
(a) 今度のイベントには著名ゲストスピーカーを招くことに考えるべきだ。
(b) We should consider to invite a well-known guest speaker for our upcoming event.
(c) 持続可能な未来がしっかりくるように、再生エネルギー源に投資することを彼らは考えている。
(d) They are considering to invest in renewable energy sources for a more sustainable future.
(3)の例文のいずれも、そこで熟考される対象は、著名人の招聘であったり、エネルギー源への投資と、私心を離れた一般的なこととして、外側から客観視する対象です。しかし、招聘するのを考えている主体が、招聘するのかしないかの選択ができるし、また投資することを考えている主体が、投資するのかしないのかを決定できます。その点では、動名詞によってあらわされている内容は、主体の支配領域の内側にあると意識されるので、to不定詞が使われます。
こうした意識から、英和辞典には consider doing という形しか正用法としてあげられていませんが、consider to不定詞という形でも使用されます。同様なことは know についてもいえます。英和辞典には know+to不定詞という形は記載されていません。しかし現代英語では、主体の支配領域の内側にあると意識される事柄は、このknow+to不定詞の形が頻繁に使われます。
(4)
(a) いい成績を取りたかったら 一生懸命勉強しないといけないのはわかっている。
(b) I know to study hard if I want to succeed in my exams.
(5)
(a) 将来の出費に備えて節約しないといけないのはわかっている。
(b) She knows to save money for future expenses.
(6)
(a) 重要な会議に遅れてはならないことは、私たちはわかっています。
(b) We know to be punctual for important meetings.
(7)
(a) ほかの人の意見は尊重しなくてはいけないということを、彼はわかっている。
(b) He knows to be respectful towards others’ opinions.
(4)では勉強をするかしないかは主語の支配領域、(5)でも節約するかどうかは主語の支配領域、(6)では遅れるかどうか、(7)では尊重するかどうか、いずれも主語の支配領域です。
この(4)―(7)までの文で、正用法とされるのは、
(4 c) I know that I should study hard if I want to succeed in my exams.
(5 c) She knows that she should save money for future expenses.
(6 c) We know that we should be punctual for important meetings.
(7 c) He knows that he should be respectful towards others’ opinions.
というように、that節を従える形です。すでに別項で触れたように、that は支配領域外にあるものをさしました。that節に導かれる内容は、知っている主体が支配可能な領域外にあることになります。支配可能な領域外にあるというのはどういうことでしょうか。
(4) 良い成績→勉強するのが当然
(5) 将来の出費に備える→節約するのが当然
(6) 重要な会議に出席→遅刻しないのが当然
(7) 他人の意見→尊重するのが当然
といったように、知っている主体の意志によって変えられない一般的な行為、つまり主体の支配領域外にあることなのです。
このように本来、支配領域外にあるはずであったことが、まるで支配領域内にあることのように意識化されてしまっているのです。これはまさに、さきほどみた consider 動名詞がconsider to不定詞へと変わっていくのと同様の論理です。