◆二元対立の英語感覚◆支配領域《内⇔外》Part6 領域内の<目的語+to不定詞>, 領域外の<that節>


<動詞+目的語+to不定詞>:直接経験に基づく主観的な意見
<that節>:報告に基づく客観的判断

主語の支配領域内・外の違いは、英語では対照的な単語のペア間での違いに反映していることはすでに述べました。再度、単語ペアの表を掲載しておきますが、ここでは表の一番下欄にある、目的語+to不定詞とthat節との違いを考えます。

(1)
(a) 依頼主は業者に対して、あらかじめ決めた日時通りに計画を終えると思っている。
(b) The client expects the contractor to finish the project within the agreed-upon timeframe.
(c) The client expects that the contractor will finish the project within the agreed-upon timeframe.

この場合の支配領域内・外とはどういうことでしょうか。(1 b)は主語である依頼主が、この業者にかつて仕事を依頼し、日時通りに仕事をこなしてくれたという直接の経験があります。これに対して、(1 c)では依頼主が、業者というものは工期をきちんと守ってくれるものですよという話をあちこちから聞いているので、この業者とはこれまでやり取りしたことはないが、予定を守って仕事をしてくれると思っているということです。ここでの支配領域の内と外との違いとは、主語がto不定詞やthat節が示す内容に対して、すでに直接経験があっての主語・話者の判断なのか、それとも直接にではなく伝聞などによる間接的な根拠にもとづいた判断なのかという違いです。
 直接経験があると、どうしてto不定詞の内容が支配領域の内にあるといえるのかといえば、業者とのこれまでの経験という身近な関係にもとづいて主語が主観的な判断をしているからです。これに対して、(1 c)でのthat節の内容が、主語の支配領域外にあるといえるのは、信頼のおける建築家からの評価やその業者の過去の実績についてネットにあがっている記録など、客観的な事実や資料がまず最初にあって、そこから予定通りに計画を終えるという内容が導き出せるからで、そこに主語・発話者の主観は入れられないものと見なされるからです。
 主語の判断であっても、それが直接の経験にたよった主観的なものなのか、それとも事実・資料があっての客観的なものなのかという区別があります。この区別に対して、直接経験であればto不定詞、客観的な根拠があればthat節というように照応しています。

図 1 支配領域内の不定詞と領域外のthat節

 ただこうした区別は必ずしも厳密に守られているわけではありません。この区別が、比較的強く意識されるのは<動詞+目的語+[to be]+補語>と、<動詞+that節>との違いです。
(2)
(a) あの人は根が正直で信頼がおけると思う。
(b) I believe him genuinely honest and trustworthy.
(c) I believe that he is genuinely honest and trustworthy.

(b)では私はあの人と職場で何年も一緒といった、その直接の経験から私がいっていることです。これに対して(c)では、いろいろな人から彼の評判を聞いていての私の思いです。
(3) あの人の料理は食欲をそそるね。
(b) I find her cooking appetizing.
(c) I find that her cooking is appetizing.

(b)では私の個人的な食感から料理は食欲をそそるといっているだけ、自分の個人的な感想を述べるにすぎませんが、(c)ではあの人の作るものを実際に食べたわけではないが、写真で見たりその評価コメントを読んだりして、一般論として食欲をそそるものだという私の判断を述べています。
(4)
(a) この計画、うまくいったと思っています。
(b) We consider the project successful.
(c) We consider that the project is successful.

(b)では私たちがこの計画は成功していると確信しているだけで、もしかするとそれはたんなる思い込みであって、失敗している可能性もあります。 (c)では、何らかの指標に照らして、そのベンチマークを本計画はクリヤーしているので、成功という評価をしており、成功の客観的な証拠を提出することができます。

(5)
(a) あの人は無実なのだと明かしたい。
(b) I want to prove him innocent.
(c) I want to prove that he is innocent.

(b)では私はあの人を知っており、そんな悪いことをするはずがない人柄なので、その無実を明かしたいわけです。ところが(c)では、状況証拠や他の人の証言など、あの人が犯人ではありえないといった客観的根拠を示して明かしたいと、正義がつよく念頭におかれています。
 以上の例から、次のような公式化が可能です。


図 2 <目的語to be 補語>直接経験, <that節>報告・資料
図 3 支配領域内の不定詞(直接経験)と領域外のthat節(報告・資料)

以上の例は、1️⃣と2️⃣のどちらのタイプも可能な動詞でした。ここで2️⃣であるthat節型がメインの動詞を思い浮かべてみると、agree, demonstrate, verify などがありますが、これらの動詞は、誰かの言葉を言質としたり、正式な報告を読んで理解したり、異なった文書を精確に照合する作業を経るなどしてからの判断を述べる際に使われます。これら動詞は、主語・発話者の単なる思い込みや感想を述べるときには使われません。that節型がメインの動詞についても、この公式はあてはまることがわかります。
that節の内容は、主語の支配領域外あり、それは報告・資料などの客観的な根拠にもとづいているからという点に注目すると、直接話法を間接話法に転換する際に、that節を用いて、語られた内容があらわされるのも納得がいきます。
(6)
(a) 医者は、ゆっくり休んで瞑想もすれば体はもとに戻るといった。
(b) The doctor said, “Rest and medication would help with your recovery.”
(c) The doctor said that rest and medication would help with my recovery.

“Rest and…….recovery”までは医者が実際にいった言葉なので、(c) で表現するときにはこの言葉を披露する報告者が自分の思うがままに勝手に変えられることはできませんから、支配領域外ということでthat節になるわ
けです。
 なお1️⃣の類型である<目的語+to 不定詞>の型をとる動詞が、2️⃣の型をとると、同一の動詞であっても、それぞれの型で意味合いの相違が大きいものもあります。
(7)
(a) 社長は従業員に、きちんと仕事をするように告げた。
(b) The manager told the employees to do a better job.
(c) 社長は従業員に、皆、よく頑張っているといった。
(d) The manager told the employees that they were doing a great job.

(b)では、社長が自社の仕事があまりにもずさんなこと(do a lousy job)を目のあたりにして、きちんと仕事をしろと命令しています。ところが(d)では、社長は自社の仕事について顧客からずいぶんとよい評判を聞いているので現場に実際にいったわけではなくとも、「よく頑張っている」と告げたでよいわけです。同じtellであっても、一方は「命令した」、他方は「言葉に出した」と意味の違いがでてきてしまうのです。
 もう一つ別な例をみてみましょう。
(8)
(a) 先生は生徒たちに、課題を提出する前に誤りがないか二重にチェックするようにいった。
(b) The teacher asked the students to double-check their assignments for any errors.
(c) 生徒たちは、課題を提出する前に誤りがないか二重にチェックするようにと、先生から依頼を受けた。
(d) He asked that the students should double-check their work for any errors.

(b)では、生徒たちが提出した課題にあまりにもケアレスミスがありすぎるので、先生が直接、面と向かってかWebの学習用掲示板に自分の記銘入りで、生徒たちに二重チェックするように頼んだということになります。それにたいして(d)では、たとえばTAが先生からの伝言として、生徒たちは課題の二重チェックするよう指示が出ていますといった場合です。一方では「いった」(依頼した)、他方では「いわれた」(依頼を受けた)と異なっているのです。

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