◆日英語の認知相違◆ 2.《日本語認知の基本》 共同注視枠と話題の焦点化


日本語:自と他の溶解が起こる
和文英訳:共同注視枠は英文では末尾に

 日本語では、相手に注目して欲しい共通の場をまず設定して、次にその場において話題にしたいものに焦点をあてる。たとえば、「国際会議に出るので、イギリス人に英語を教わっている」という文なら、「国際会議に出る」が、相手を今いる場から引きはがして、注目して欲しい共通の場に運び入れる。この共通の場に、「イギリス人に英語を教わっている」という話題を浮かび上がらせて焦点化する。そしてこの例文からもわかるように、主語が省略されることが常態化していて、主語が他に何かの力を及ぼすという<自⇔他>の形式になじまない。


日本語では共同注視枠の設定が優先されるために、副詞句や副詞節が文頭に頻繁に登場する。 
   (1 a) 昨日、東京スカイツリーにいった。
しかし英語では主語優先であるために、昨日が文頭にくるのではなく主語が文頭にくる。そのために
   ▼(1 b) Yesterday I went to Tokyo Sky Tree.
   ☀(1 c) I went to Tokyo Sky Tree yesterday.

次に英語では主語が明示されるために、(2 a)「昨日、東京スカイツリーにいったが、強風で展望台にのぼれなかった。」は、直訳して次のようにしてしまう。
☠(2 b) Yesterday I went to Tokyo Sky Tree, but due to strong wind I could not climb up to its observatory.

昨日強風でも、共同注視枠なので文中の大きな区切りの冒頭にきている。その語順にひかれて、(3 b)ではいずれも文の冒頭に昨日強風でもが置かれていて、主語優先の英語の視点になじまない。さらに日本語では主語が省略されているので、そこに主語を補って、「私が展望台にのぼれなかった」として、 “I could not climb…” とするが、これでは自力で鉄骨伝いに登っていくことになってしまう。私の経験としては、「展望台にのぼれないことがわかった」ということだから、
☀(3 c) I went to Tokyo Sky Tree yesterday, but I found its observatory closed due to strong wind.

日本語の共通枠設定は英語の主語優先に邪魔になることは、次の例文でも同じである。
(4 a) 昨日午後、レストランで二人を見たとき、彼女は連れ合いの男に脅されていると思った。
☀ (4 b) I got the feeling she was intimidated by her partner when I saw them at the restaurant yesterday afternoon.

また私の経験としての部分が抜ける例は、
(5 a) 昨夜、新鮮な空気を吸おうと庭に出てみると、星が満天の空に輝いていた。
▼(5 b) Last night when I went out in the garden to breathe in fresh air, the stars were shining all over the clear sky.
☀(5 c) I saw the stars shining all over the clear sky when I went out in the garden to breathe in fresh air last night.  以上のことを抽象化してまとめると、図7のようになる。

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