ナシーム・ニコラス・タレブ『反脆弱性』
強くもなく弱くもなく、「しなる」柳のように
¶私たちは通常、すぐに壊れたり調子が悪くなったりする性質を「脆弱」 fragile と形容します。脆弱の対概念として「頑強」 robust が挙げられてきました。これは外乱や圧力に対して耐える能力を示します。タレブは、脆弱性の真の対概念は「外乱や圧力によって、かえってパフォーマンスが高まる性質」であるべきだと主張しました。この新しい概念を彼は「反脆弱性」 anti-fragile と命名しました。
¶反脆弱性とは、単なる耐性を超えて、逆境から利益を得る能力にあたります。そうした数多くの例を上げている中で、ローマのストア派哲学者セネカについて3章もさいて、解説しています。ストア哲学というと、不幸な事態に出会ってもそれに対して忍耐をもって耐え抜き、良いことが起こってもそれに欣喜雀躍しないといったように受け止められています。しかしタレブは、従来のセネカ哲学理解の誤りを指摘し、その哲学を絶賛しています。
¶セネカの人生観の味噌は、事態に対してマイナス面よりもプラス面を考え、そしてそのプラス面の方がマイナス面よりもいつも質・量ともに勝っているとみなす点にあるというのです。そもそもセネカはビジネスマンとして成功を収めており、事態に対する「貸借表」を作り、貸しを増やすことにきわめて巧みな志向(=反脆弱性)をもっていたというのです。
■著作一行紹介■ ウォール・ストリートの金融から哲学に転じたレバノン人。世界で生じる出来事を因果で説明することは不可能で、それらが無作為に起こることを認めようと警鐘を鳴らす。
▶要言一行紹介◀ 万全の準備を図る「頑強」ではなく、負荷がかかっても総崩れとならないように「半脆弱性」のリソースを日頃から開拓する必要がある。
◆一口コメント◆ 毎朝のジョギングで頑強になるよりも、絶食、断食という負荷をかけることで、人はより健康になれる。