◆二元対立の英語感覚◆支配領域《内⇔外》Part3 to不定詞と動名詞の深層相違
to不定詞:主語の支配領域内
動名詞:主語の支配領域外
前項では、to不定詞と動名詞の違いについての通常の説明を繰り返しました。ここからは、to不定詞と動名詞に含まれる動詞のその主語が、動詞で示される行為に対して、主語がコントロールできる範囲内にあるのか、それともコントロールできない領域にあることなのかという観点から考え直していきます。前項で使った例文をいま一度みてみましょう。
(1)
(a) 実をいうと、私の趣味は、蛇の脱皮した皮を集めることなのです。
(b) Honestly, my hobby is collecting shed snake skins. (2)
(2)
(a) 実をいうと、私の夢は、福をよぶお守りである、蛇の脱皮した皮を集めることなのです
(b) Honestly, my dream is to collect shed snake skins, a talisman to bring good luck.
私の夢は、蛇の脱皮した皮を集めることですが、集めるのか集めないのか、それを決断するのは私の意思しだいですから、私の支配領域内にあります。だから to不定詞。それに対して私の趣味は蛇皮を集めることで、すでに集めているので、集めたという行為に対して私は自分の意志でその事実を変えることはできず、集めてしまったことは、もはや自分のコントロール下にありません。だから動名詞が使われます。

この例からだけですと、実践済みかどうかの違いを支配領域の内と外で言い換えたにすぎないと思われるかもしれません。しかし支配領域内・外という分け方は、実践済みかどうかという指標よりもはるかに応用が効きます。
(3)
(a) 自分を愛してくれない人を愛するのと、自分が愛していない人に愛されるのとでは、どちらがよいですか。
(b) Which would you prefer, to love someone who does not love you, or to be loved by someone whom you do not love?
過去において失恋の経験があれば、「自分を愛してくれない人を愛する」ことは実践済みということになります。また結婚はしたものの、目下パートナーに愛想がつき、他方パートナーは愛がまだ冷めていないという結婚生活を送っているなら、「自分が愛していない人に愛される」ことになります。実践済みかどうかの指標からすれば、どちらの選択肢を答えるにしても動名詞ということになります。しかし実際には、失恋経験があっても
(4)
(a) I would prefer to love someone who does not love me.
というように、to不定詞を使います。これは、愛するかどうかは私の意思のコントロール下にあるからです。
もっともここで反論が出るかもしれません。would prefer とあるように、ここは仮定の話をしているのであって、to不定詞は動名詞とは異なって仮想の行為にかかわるので、ここでは to love が使われるのだと。
では次の例はどうでしょう。
(5)
(a) Z世代(現時点では18歳から24歳)は、家にいて自分の生活を楽しむ嗜好がある。
(b) Generation Z, current aged between 18 and 33, prefer to stay at home and enjoy the satisfactions of private life.
ここではZ世代はすでに「家にいて自分の生活を楽しむ」ことをやっているわけですから、実践済みかどうかという指標からすれば、実践済みなので、ここでは動名詞を使わなくてはならないということになります。しかしここでは、to不定詞が使われています。それは、家にいて自足的な生活をするのか、屋外でスポーツをしたり公園バーベキューをするのかといったことは、to不定詞の主語であるZ世代が自由に思うままに決められる支配領域内にあるので、to不定詞が使われるのです。
支配領域内か外かという指標が、to不定詞と動名詞の使われ方の違いにあらわれていることがわかると、次の文で主語がどう考えているかの違いもわかってきます。
(6)
(a) 日本で旅行するなら、私は、飛行機より列車です。
(b) I prefer to take the train rather than go by air when traveling in Japan.
(c) I prefer taking the train rather than going by air when traveling in Japan.
(6 b) は旅行するにあたって、列車か飛行機かを選ぶのは私の意思によって思うままに決められるという意味合いがあります。これに対して、(6 c)は団体旅行で飛行機で行くことが決まっていて、列車で行くのではないというような場合に、団体メンバーの一人である自分は、そう決まっているから仕方がないが、本来の自分の好みをいえば、列車で行きたいのだよという意味合いがあります。
prefer と同様に、remember, forget もto不定詞と動名詞の両方を取りますが、to不定詞がくる場合と動名詞が続く場合とでは、日本語訳は変わってきます。変わる理由は支配領域内・外で説明がつきます。
(7)
(a) To her mother’s relief, she remembered to turn off the oven after baking the cookies.
(b) Despite her mother’s accusation, she clearly remembered turning off the oven after baking the cookies.


(7 a)ではto不定詞が使われているので、クッキーを焼いた後に、オーブンのスイッチを切ることは彼女のコントロール領域にあることになります。スイッチを切るかどうかは彼女の意思次第だということですから、スイッチを切ることを彼女は自覚していたということになります。そしてここで少し注意が必要なのは、スイッチを切ることを自覚している時点ではたしかにまだスイッチを切ることを行っていませんが、彼女はスイッチを切ることを自覚していたので、実際にスイッチを切って、「母親が安堵したように」、クッキーを丸焦げにすることも、あるいはオーブンの空焚きをすることもなかったわけです。ですからto不定詞が使われていますが、これは彼女が実践したことです。これに対して、(7 b) では動名詞ですから、彼女が意思ではもはや変えることのできないことです。スイッチを切ったことは、いま思い出している彼女にとっては自分でその事実を変えることはできず、彼女の支配する領域の外にあるわけです。ここでは、スイッチを切ることは、動かしようのない事実、つまりすでに実行している行為なのです。だから、スイッチを切っていないと「母親から責められた」が、彼女は間違いなくスイッチを切ったのをはっきり覚えていたとなります。
では続いて忘れた場合にいきましょう。
(8)
(a) She forgot to turn off the oven after baking the cookies. Again, she ruined cookies.
(b) She forgot having turned off the oven after baking the cookies. Later, she worried the oven might be still switched on.


forgetも同様に考えることができます。(8 a)ではto不定詞が使われ、スイッチを切るかどうかは彼女の支配領域内ですから、切るということを忘れた、つまりオーブンの火をつけたままにして、「またしてもクッキーを丸焦げにした」わけです。そしてここでも(7 a)と同様に、to不定詞の行為は実践されたことです。ところが(8 b)のように動名詞を使うと、切ったという事実(彼女の支配領域外のこと)を忘れたとなります。切っていなかったと思ってキッチンにいってみると、きちんとスイッチが切れていて、「オーブンの空焚きはしていなかった」ことになります。
通常、remember, forget に続くものがto不定詞なのか動名詞なのかによって生じる意味の違いは、to不定詞がまだ行われていないこと、動名詞がすでに行ったことと説明されます。しかしこうした説明に立つと、(7 a), (8 a)のような実際に行われたことでもなぜto不定詞が使われるのか説明に窮します。しかし支配領域内・外という枠組みで拡張してto不定詞と動名詞の違いを捉え直すと、このように応用範囲がはるかに広まります。
さらに応用範囲を広げると、たとえば proposeです。この動詞も to不定詞と動名詞の両方を取りますが、支配領域内・外で説明がつきます。
(9)
(a) I proposed creating a new department dedicated to innovation and research.
(b) 研究開発に特化した部署を新たに設置するべきだと私は提案した。

設置するかしないかの権限は、creatingと動名詞ですから、私はたんなる平社員であるにもかかわらず恐れずに積極的に提案しただけで、部署の新設を決断する権限は私の支配領域外にあることがわかります。
これに対して、次の文では、私は会社の執行責任者なので、提案したことを実行する権限を掌握しており、提案の内容についてはto不定詞が使われます。
(10)
(a) I proposed in my capacity as CEO to do a complete restructuring of the organization to improve efficiency.
(b) 効率化を進めるために、組織の徹底した再編を行うことを、私はCEOの権限で、提案した。

主語の支配領域の内側にあるときは to不定詞、外側にあるときには動名詞ということが頭に入ると、なぜ recommend, suggestといった相手に提案する動詞の後に、動名詞がくるのかも氷解します。
(11)
(a) The doctor recommends avoiding excessive exposure to sunlight to prevent skin damage.
(b) 医者は、皮膚を傷めないよう、日光に過渡にさらさないようにと忠告した。
(12)
(a) The nutritionist suggested eating more fruits and vegetables for a balanced diet.
(b) 栄養士は、食事のバランスが取れるように果物・野菜をもっと摂るように提案した。
(11 b) の場合、皮膚を過度にさらすのかさらさないのかは患者本人がすることであって、主語である医師ではありません。主語の支配領域外にあるので、動名詞がくることになります。また(12 b)では、果物・野菜をもっと摂るかどうかは、食べる本人が実践することであって、栄養士がするわけではありません。摂るのは主語である栄養士の支配領域外なので、動名詞になります。
このように、recommend, suggestといった動詞は、主語が相手に何かを実行するように申し出るわけですが、その実行の主体は、提案している本人ではなく、提案を受ける側にあります。そのために、提案内容を実行するかどうかの支配領域は、提案者の外にあることになります。だからrecommend, suggestといった動詞は必然的にそのあとに動名詞を従えるわけです。 なお最後に、try + to不定詞/動名詞の意味の違いについてですが、前項でみたように実際にやったのかやらなかったのかという違いはあります。それに加えて、支配領域内か外かという区別が生きてくると、実行したのかどうかにかかわりない使われ方がある場合でも、理由は説明できます。
(13)
(a) 今日一日中、君のところに電話をかけまくったけど、留守電メッセージが聞こえてくるだけだったよ。
(b) I’ve been trying to call you all day but all I’ve got is a recorded message from the answering machine.
(c) 次にかけるときはSNSを送ってみて。
(d) Try texting me the next time.
(13 b)では実際に電話をかけたにもかかわらず to call とto不定詞が使われていますが、これは電話をかけるかかけないかの選択肢は私の支配領域内にあるからだと説明できます。また、(13 d)ではSNSを送ったわけではないのに、動名詞 texting になっていますが、これは SNSを送るのが、発言者自身ではなく、相手なので、SNSを送るのか、送らないのかの選択肢は相手にあって発言者にはありません。送るという動作は、発言者がコントロールできるわけではないので、動名詞が使われていると説明できます。

■参考文献■
Dixon, Robert M. W. A New Approach to English Grammar, on Semantic Principles. Oxford: Clarendon Press, 1991. Chapter7.
濱田英人. 認知と言語: 日本語の世界・英語の世界. 東京:開拓社, 2016.
Langacker, Ronald W. Cognitive Grammar a Basic Introduction. Oxford: Oxford University Press, 2008. Chapter 12.
Wierzbicka, Anna. The Semantics of Grammar. Amsterdam: John Benjamins, 1988. Chapter 1.
