◇愛のエンブレム◇ 42

AMOR ADDOCET ARTES.

Ingeniosus Amor varias nos edocet artes;

Rebus nosque habiles omnibus ille facit,

Illius inuento concordant carmina neruis:

Molliaque Alcides pensa trahebat herae.

アモルはさらなる技芸を教える。

才能豊かなアモルはさまざまな技芸を徹底して教え、

どんなことも容易にこなせるようにしてくれる。

アモルの創意工夫があると、歌詞は弦楽器と調和するし、

  ヘルクレースは女主人のために柔らかい羊毛の糸をたぐり寄せたものであった。

愛は芸術の師

アモルは音符を使って、愛する者に上手に歌うことを教える。

ちょうどかつてヘルクレースに紡ぐことを教えてやったように。

今あるほとんどすべての技芸は、最初は愛から始まったのである。

愛によって愛する者はどんな技にもふさわしくなるのだ。


❁図絵❁

 ライオンの衣をまとった怪力無双の英雄ヘルクレースが、邸宅の一室で椅子に座りながら羊毛を紡いでいる。その英雄にアモルは、楽譜を開きながら歌を教えている。

❁参考図❁

ジョヴァンニ・フレンチェスコ・ロマネッリ (Giovanni Francesco Romanelli)「ヘルクレースとオムパレー」1650年代

 リューディアの女王オムパレーが、ヘルクレースに恋をしてしまう。女王はこの英雄に寄り添い、彼の持物である棍棒を持ち、一方英雄は女性の持物である紡錘を手にしている。女官の一人は、女王の語る愛の言葉に聞き惚れている。そしてアモルの一人は糸巻き棒(女仕事の象徴)を英雄に突きつけ、別なアモルは英雄の上で松明(愛の象徴)をともしながら頭から酒を注ぎ、さらにもう一人のアモルはカーテンを上げてベッドの準備をしている


〖典拠:銘題・解説詩〗
典拠不記載:実際にはホラーティウス[➽21番]「酔わせてしまえば、達成できないことがあろうか。…[酩酊は]さらなる技芸を教える」(『書簡詩』1巻5書簡16, 18行[➽26番])。ホラーティウスは質素な食事会を催す気になり、裕福な一族のメンバーの一人に、友人たちを連れてきてはどうかと打診する。その際に、金は使わないなら自分のものではないのと同じといいながら、食事会で散財するのはよい金の使い方だと説く。そして酒がもたらす様々な利点を列挙するが、その時の言葉がここの引用。酒の利点は、人間を鬱積から解放して雄弁にするので、ここでの「技芸」は雄弁術のこと。

典拠不記載:

〖注解・比較〗
弦楽器:古代ローマではキタラ、ルネッサンスではリュート(現在のギターの前身)が多く用いられた。
女主人:病気になったヘルクレースを、奴隷としてリューディアの女王オムパレーが買い取った。女王の宮廷で仕えることになったこの英雄は、女装をして羊毛紡ぎなどの女性の仕事をしたといわれる。参照アポッロドーロス『ギリシア神話』2巻6章3節およびプロペルティウス『エレギーア』3巻11歌17-20行[➽14番]。

歌うことを教える:「うら若み ねよげに見ゆる 若草を ひとの結ばむ ことをしぞ思ふ」(伊勢物語 第49段)。「若々しいので寝よさそうに見える若草を、私ならぬほかの男の結ぶであろうことが気にかかることです」(石田穣二 訳)。ある男性が自分の妹を見てやがて誰かと結婚することを思い、妹を春に新しく萌え出た草にたとえて、その草の上に自分は兄なので寝ることはできないと、残念な気持ちをあらわしている。しかしそれだけではなく、第5句「ことをしぞ思ふ」は、「琴をしぞ思う」とも解釈できる(源氏物語 総角(あげまき) 第5章第6段)。とすると、兄が妹に琴の弾き方を教えても、その演奏を聴いて楽しい思いをするのは、兄である自分以外の男性なので、残念とも読める。なお、女性は、男性の望むような雰囲気を作り出すために演奏するのであって、自分の好きな曲を自分で楽しむために弾くのではなかった。


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