◆二元対立の英語感覚◆支配領域《内⇔外》Part1 内と外で分かれるthis/that, here/there
this, here: 主語が制御可能な事柄をさす
that, there: 主語が制御できない事柄をさす
「散歩をする」have/take a walk の違いはすでに別項で説明しました。have a walkの場合には毎日やっていて、やるやらないは自分の自由裁量にあるようなケースで使います。これに対して、take a walk は、思い立ってやる場合に使います。こうした違いが出てくるのは、haveという動詞は、目的語が主語の支配領域内にある場合に使える言葉で、散歩にそくしていえば、どのように散歩をするのかは主語が自らの意志でコントロールできることになるからです。一方 takeは支配領域外にある事柄を支配領域内に主語の意思と力を使って取り入れる場合に使うので、それまでは自分の支配領域外にあった散歩をするということを、意志の力を使って自分のコントロール下におこうとすることだからです。


have/takeにみられるような、主語の支配領域内にあるのか、領域外にあるのかという対立は、実は、指示代名詞から不定詞・動名詞の意味の違いにまで生きています。

this, hereが主語に身近なことで、主語が関係をもつことができ、コントロールもできる範囲内にあることはすぐにわかると思います。
(1 a) こんな子犬のために、こんなに払うなんてまっぴらだ。
(1 b) I would hate to pay this much for this small dog.
この文では、主語である私がこの子犬をどういうふうに扱いたいのか、いくら支払うのかといったように、いずれも主語と関係があり、主語がコントロールできることなので、this が使えるわけです。
一方、that の場合となると、
(2 a) あの人、嫌い。ともかく薄気味悪いもの。
(2 b) I don’t like that guy. He is creepy and weird.
ここでは、あの人と主語(私)は無関係だし、あの人を自分の身近な領域に置きたくないので、that が使われています。
さらに here と there との違いをみていくと、
(3 a) 貴社に提供できることは、ずばり、社員の期待値を上げ、職務遂行をしっかりとさせることです。
(3 b) Here‘s what we can do for your company: Reinforce employer expectations and good work habits.
Here’s 以下の内容は、主語である自分たちの力と手綱さばきによって取り仕切ることができるはずの具体的な事柄になっています。
「~がある」という意味の there is ~ 構文は、簡単な文でも、少し注意して~の部分にくるものを考えてみると、主語とは切り離されていて、主語がいま直接に支配しているものではないと気づきます。
(4 a) テーブルにリンゴが3つある。好きなのどれ取ってもいいよ。
(4 b) There’re three apples on the table. Take whichever you like.
▼(4 c) There’re my three apples on the table. Take whichever you like.
ここでは、主語である自分が打てる手は、今ここにあるわけではなく、自分の管轄する範囲外にあって、まだどうしてよいのかその手が思いついていないわけです。ところがここの there’s を here’s とすると、主語である私はその手をすでに思いついていて、相手に提案できる状態になっていることになります。
(5 a) 起こることはしかるべく起こるのだけれど、私には打てる手があるから大丈夫。
(5 b) Whatever is going to happen is going to happen, but here’s something I can do about it.
thereのコントロール外の感覚が、こうした例よりもさらにもっと遠く自分の管轄外にあるのは、私に対する公です。
(4 a) 目下の人生目標は、世間に出ていって、自分のためにどれだけのことをやり遂げ達成できるかではありません。
(4 b) My purpose of life now is not how much I can achieve or accomplish out there for myself.
この文の out there は世間という意味であって、自分が掌握できないし管理下におくこともできず、私的な私とは切り離された場所をさしています。