◇愛のエンブレム◇ [献辞] ファン・フェーン

学問と騎士道の保護者にして、いとも気高く立派な兄弟であられる
ペンブルック伯ウイリアム猊下ならびにモントゴメリー伯
フィッリプ猊下

<名声>はイングランドの島から海を超えて私どもの広い大陸へと飛び、ここにお二人が気高く立派であるという噂を残していきました。そのため僭越ながら、私はお二人の評判にふさわしいようお仕え申し上げ、お二人の名誉になれたらという気持ちでございます。しかしお二人に命ぜられて仕事をするほどには幸運ではなく、これまでその機会もめぐってまいりませんでした。これを機会に、私の作りましたエンブレムを猊下に(ご気晴らしの品として)お捧げし、猊下のご指名を喜んでうけるその意気込みを、大胆にも表に出させていただきたく思います。このエンブレムは、臣下(サブジェクト)と同様に君主の皆様をも従える(サブジェクト)、、、そういう主題(サブジェクト)でございます。どうか猊下、この異国より、お二人には面識のない者めがお二人に敬意を捧げますことを、お許し下さい。もてる力を尽くして敬意を払う者は、見知らぬ者とはならなくなるはずでございますから。

以上、まことに簡単ではございますが、気高きお二人の手に、このアントワープより接吻させていただきます。

1608年8月20日

オットー・ファン・フェーン


〖注解〗

ウイリアム猊下: ウイリアム・ハーバート〔1580年-1630年〕は、第三代ペンブルック伯爵。10歳から詩人サミュエル・ダニエルを家庭教師としてもち、また成人するにおよんでは、ベン・ジョンソンやジョージ・ハーバートといった現在まで名をなす著名な詩人たちの保護者となる。
フィッリプ猊下:フィリップ〔1584年-1650年〕は、兄ウイリアムを継いだ第四代ペンブルック伯爵。ジェ-ムズ一世に寵愛され、モントゴメリー伯の称号も受ける。狩と博打好きでもあった。ちなみにシェイクスピアの第一フォリオ版は、この第三・四代の二人の兄弟に献呈されている。この二人をペアとして献呈した著作は、このほかにも当時としてはかなりの数にのぼる。版権による印税という概念がなく、出版にかかる費用を被献呈者である貴族が負担したという事情がある(Greenwood 40-42)。



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