◇愛のエンブレム◇ 122
QVAM BENE NAVIGANT, QVOS AMOR DIRIGIT?
Tibul. Si quis amat, quos amare iuuat feliciter ardet,
Gaudeat, & vento nauiget ille suo.
Eurip. Quicumque homines amori capti fuerint,
Si commodos nanciscantur amores,
Nullum eis abest voluptatis genus.
アモルを舵取りにする人たちは、どれほど巧みに航海するのか。
ティブッルス 恋するのがうれしくて、恋をしているなら、その情熱はうまく燃えている。
そんな男は、順風を受けてにこにこしながら航海をさせるがよい。
エウリーピデース 恋の虜になって、偶然にも、その恋が自分に
ぴったりなら、どんな男であれ、
ありとあらゆる喜びに不自由することはない。
順風が吹けば巡航
風と潮の流れにうまく乗れば、愛は幸福そのもので、
帆をいっぱいにふくらませて望んだ港に進んでいく。
とはいえ、嫉妬の逆風✒が一吹きもしないといった
幸福に恵まれる話は、ほとんど誰もすることができない。
❁図絵❁
アモルが帆船の舵取りをしている。船は風神から追い風を受けて、帆をいっぱいにふくらませ、朝日に向かって進んでいる。船の中では仲むつまじいカップルが互いに見つめ合っている。
❁参考図❁
ディルク・ハルス (Dirck Hals)「手紙をもって腰掛ける女性」1633年
つやのある絹の服をまとった女性がにっこり笑いながら、イスの背に腕をかけ、得意げにラブレターを片手で下げている。壁にかかっている絵には、順風満帆で海を進む船が描かれている。なお女性が右足を載せているのは足温器で、手紙の内容が女性の意にかなう暖かいものであったことは間違いない。
〖典拠:銘題・解説詩〗
典拠不記載:
ティブッルス:[➽12番]実際にはオウィディウス[➽世番]『恋愛治療』13-14 行[➽43番]。ここでオウィディウスは、恋することがうれしいなら、それはうまくいっていると述べている。しかしこれに続けて、恋をしたが、相手が横暴な女で苦しんでいるなら、身を滅ぼさないための療法を授けようといっている。
エウリーピデース:[➽92番]フェーンと同時代人のロバート・バートン✒はこの箇所を引用して、結婚愛についてあてはめ、仲のよい夫婦は神の心にかなっていると述べている。またバートンは典拠を、エウリーピデース『アンドロマケー』(行数不記載)としている。
〖注解・比較〗
嫉妬の逆風:幸せなカップルを見た他人は、嫉妬心を起こして、カップルにいろいろと邪魔をするということ。
ロバート・バートン:〔1577-1640年] イギリスの神学者。英国国教会牧師として、また書物を妻として、膨大な『憂鬱の解剖』(初版1621年)を著した。この著作内では数多くの引用が散りばめられ、その数は常人の域を遙かに超えている。
航海:「いで我を 人なとがめそ 大船の ゆたのたゆたに もの思ふ頃ぞ」(古今和歌集 508)。いや皆様、どうか私の姿を見て、怪しみとがめないように。私は波間にゆったりと浮かぶ大船のように、恋の思いでぼんやりとしているこの頃なのですから。