◇愛のエンブレム◇ 73

Ouid.    APPARET DISSIMVLATVS AMOR.

Dissimulas frustra: quis enim celauerit ignem?

Lumen ab indico proditur vsquè suo.

オウィディウス 平気を装っても、恋はわかる。

平気を装っても、無駄。これまでその炎を隠しおおせた人がいただろうか。

  ()かりは(あか)るいから、明かりがあるすぐにわかってしまうのだ。

愛は表われるものだ

 

 アモルの熱をもった火は、隠しおおせるものではない。

すこし隙間があったり、ちょっとした穴があると、恋は露見してしまう。

恋は隠そうとすればするほど、見つかってしまう。

愛は、人に知られていないという自信をもてないからだ。

❁図絵❁

 アモルは(たる)を逆さにして松明(たいまつ)を隠しているが、その明かりは樽に空いた穴からしっかりと()れている。その漏れた光を、もう一人のアモルが指で明示している。

❁参考図❁

カラヴァッジョ (Caravaggio)「占い師」1596-97年

ジプシー娘に、占いをしてもらっている若者。若者の大きな羽のついた帽子、手袋と色そろいの高価な上着など、その着こなしは、これがたんなる運勢占いではなく、恋にかかわっていることを暗示している。ところで娘が若者をじっと見つめているのは、若者に恋しているからではなく、若者の中指から指輪を盗もうとしていることを気づかれないためだ。


〖典拠:銘題・解説詩〗

オウィディウス:[➽世番]この銘題と銘題下の二行もオウィディウスからの引用に基づいている。「誰が炎をうまく隠せるでしょうか。/明かりは勝手に出ていくのが常なのです。……募る気持ちを隠そうと、なんとかならないものかと/思うのですが、隠そうとしても出てきてしまうのです」(『名高き女たちの手紙』16歌 7-8行、237-238行[➽70番])。この巻は、トローイアの王子パリスから人妻ヘレネーに宛てた書簡体詩で、パリスはヘレネーへの激しい恋心を隠そうとしていたが、隠しきれなくなったことを告白している。なおオウィディウスの原文では、最初が「僕はうまく隠せない」となっており、最後の「明かり」は恋の炎が出す「明かり」と限定している。
典拠不記載:上記参照。

▶比較◀

隠しおおせた人:「恋すてふ わが名はまだき立ちにけり 人知れずこそ 思ひそめしか」(壬生忠見(みぶのただみ)『百人一首』41番)。「この私が 恋わずらいをしているという噂 人の口に戸はたてられぬ とはいうものの なんということだろう ひそかに ひそかに あのひとのことを 思いそめたばかりなのに」(大岡信 訳)。誰にも知られないようにこっそりとあの人に想いを寄せているのに、恋をしているという風評がもう立ってしまったと嘆いている。こうした嘆きのポーズを示すことで、恋をすると、たとえそれが初期の恋であれ、これまであった自制心や落ち着きが揺らぎ、その影響が自分の立ち居振る舞いに自然に現れて出てきてしまう、恋がもつ圧倒的な力の強さを示している。


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