◇愛のエンブレム◇ 94

Senec. QVO QVIS MAGIS AMAT, HOC MAGIS TIMET.
Numquam non animum formido tangit amantis,
Et stultus stulto sæpè timore tremit.
Quò plùs crescit Amor, plùs hoc suspectio crescet.
Res est solliciti plena timoris Amor.
セネカ 深く愛すれば愛するほど、恐怖心が増してくる。
恋をしているなら、心が不安に駆られることはけっしてないはずなのに、
あれこれ思って愚かにもびくびくする馬鹿になることがよくある。
恋心がしだいに募ってくると、不審も高まってくるだろう。
アモルは、湧いてくる不安でいっぱいになってしまうものなのだ。
愛が大きければ大きいほど恐怖も大きい
愛が大きければ大きいほど、それだけ恐怖もいろいろだ。
自分が一番愛するものには、一番の気がかりだからだ。
こうして、不安が愛から生まれ、その不安からますます愛が生まれる。
失うことを恐れている男には、必ず不安がつきまとうのだ。
❁図絵❁
不安に駆られて倒れそうなアモルが、弓で自分の体を支えている。そのアモルと抱き合っているもう一人のアモルはややうつむき加減で、同じように不安に苛まれている様子である。実際、このアモルの後には、不安の象徴であるウサギが群れをなして付いてきている。
❁参考図❁

ピーテル・ラストマン (Pieter Lastman)「イーオーといるユッピテル神を発見したユーノー女神」1618年
大神ユッピテルの妻ユーノー女神は、夫が他の女と交わるのではないかといつも疑い、不安に苛まれていた。案の定、夫はアルゴスの王女イーオーを愛し、ユーノーの目を欺こうとイーオーを雌牛に変身させていた。ユーノーはそれを見抜き、雌牛を渡すようにユッピテルに要求している。なお、雌牛の胴体のすぐ横にいる赤い面を顔に付けている男性は<欺瞞>で、アモルとともに雌牛を隠そうとしている。
〖典拠:銘題・解説詩〗
セネカ:[➽世番]参照「友愛が深まれば深まるほど、一緒にいたくなる」(アルベルトゥス・マグヌス『トピカ』2章481B)。アリストテレス註解[➽2番]にみられる言葉。
典拠不記載:
〖注解〗
アルベルトゥス・マグヌス:<全科博士>と異名をもつ博学多識の中世キリスト教神学者。『トピカ』は、聖アルベルトゥスによる、アリストテレスの『トピカ』(問題や前提に対応するさまざまな論理様式を示した弁証術)の註解書。
▶比較◀
不安:「心から 浮きたる舟に のりそめて ひと日も浪に ぬれぬ日ぞなき」(小野小町『後撰集』779)。<大意>自ら進んで貴方に恋をして、恋というこの不安の募る浮き(=憂き)舟に乗りましたが、それからというもの、なみなみならぬ涙に自分の袖を濡らさない日はありません。『小町集』の詞書には「ある人、心かはりてみえしに」とあり、男が自分への恋を捨て、他の女性に心を移したのかもしれないと、小町は不安にかられ涙を流していることが伝わってくる。