◇愛のエンブレム◇ 6×5

Cic.      LITTERIS ABSENTES VIDEMVS.

Viuis in extremis ignoti partibus orbis,

Et procul ex oculis dulcis amica meis.

At te preasentem, absentem licèt, esse putabo,

Si mihi sit verbis charta notata tuis.

Seneca.            Si imagines amantibus, etiam absentium, iucundæ sunt, quòd memoriam renouent, & desiderium absentiae falso atque inani solatio leuent: quantò iucundiores sunt litterae, quae vera amantis vestigia, veras notas afferunt.

キケロー    手紙を読むと、いない人が蘇る。

恋人よ、君は、僕の眼を喜ばせるにはほど遠い、

 未知の土地の最果てにいる。

でもたとえここにいなくとも、もしも君の言葉が記されたものが

僕の手元にあるなら、ここにいると考えられよう。

セネカ                恋していると、恋人がその場にいなくとも、その(ひと)の画像があれば、姿が記憶に蘇ってうれしくなる。そのいない女への気持ちは、中身のない仮の慰めによって治まる。ならば、その女からの手紙は、本物の痕跡、本物の印を運んできてくれるから、なおさらうれしいものなのだ。

愛の喜びは手紙によって変わる

 
  愛は、相手から離れていたり、相手が遅れたりするといらいらし、

愛していても、なんの安心もえられないが、

ラブレターが届いて、心のうちを知らされると、 愛の喜びは、朽ち果てることも、死にたえることもなくなる。


❁図絵❁

アモルが樹(おそらくオーク)の根元で座りながら、ラブ・レターを読んでいる。アモルの隣には郵便配達夫(roldrager)がおり、もう一通の手紙をアモルに差し出している。なお郵便配達夫には、依頼人から預かった手紙類を開封せずに宛先人に確実に手渡しできるという信用が必要であったので、その地位は高かった。たとえばヤン・ファン・ペーテルソム(Jan van Petersom (1627-1697) ) は、郵便配達夫(旅するメッセンジャー)としてアムステルダム市に雇われ、数年後には市庁舎職員から市の会計総責任者になっている。

❁参考図❁

ピーテル・デ・ホーホ (Pieter de Hooch)「手紙を読む女性」1664年

若い女性がきちんとイスに腰掛け、手紙を膝元に広げて読んでいる。陽光が窓から射しこんで彼女の顔や胸の一部だけが輝き、おそらく手紙を受け取って読む彼女の喜びをあらわしているのだろう。そしてこの現実的な絵画空間にしては不思議なことに、テーブルの向こうの壁には、光の方向から映るはずのない人影のようなものが映っている。それは、もしかするとこの女性が手紙を読んで思い浮かべている手紙の書き手の姿かもしれない。


〖典拠:銘題・解説詩〗
キケロー:[➽5番]参照「たとえいま私たちは離ればなれでも、手紙のおかげで利用できることは利用することにし、面と向かって会ったときにできるはずのこととほぼ同じことをやることにしましょう」(『友人宛書簡集』15巻第14書簡 3節)。

典拠不記載:

セネカ:『倫理書簡集』第40書簡1節。友人ルーキーリウスに宛てた手紙のなかで、セネカは哲学者にふさわしい話し方について論じている、その冒頭部分にある言葉。ただし、セネカの原文は、恋人同士のことではなく、セネカとルーキーリウスのことであり、ルーキーリウスからもらった手紙に対してセネカは、「不在の友達」であるルーキーリウスに手紙のお礼を述べている。

▶比較◀

手紙:「姫宮の御方より、二の宮に御消息ありけり。御手などの、いみじううつくしげなるを見るにも、いとうれしく、『かくてこそ、とく見るべかりけれ』と思す」(『源氏物語』蜻蛉(かげろう))。「女一の宮のほうから、女二の宮にお手紙が届けられました。御筆跡などが、すばらしくお綺麗なのを見ましても、薫の君は実に嬉しくて、このように文通して、もっと早くから女一の宮のお手紙を拝見すればよかったとお思いになります」(瀬戸内寂聴訳)。薫は女一の宮を見て、恋心が募り、あまりにもその思いが強烈で、せめて筆跡だけでも見ようと、女二の宮宛に女一の宮の手紙が届くように策略し、見事成功する。薫は、女一の宮の筆跡を目にして、その恋心がますます募るようになる。なお筆跡もさることながら、書きつける和紙、和紙に染み込ませる香、そして手紙に添える花は、手紙を書く人のセンスや個性を象徴するものであった。このように手紙は、深みと奥行きを運び、書く人をしっかりと偲ばせるものであった。


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