◇愛のエンブレム◇ [賛辞 3] マックス・ウリエントゥス
In Cupidines Othonis VaenI.
Viderat in vulgum tot se prodire figuris
Nudus Amor, varios quot struit ipse dolos;
Plumbea sollicito quot spicula miscet amaro,
Aurea quot dulci tingit inuncta fauo.
Viderat, & latè artificem vestigat, at illi
Obuia quaerenti fit Dea forte Venus.
Substitit, & curas maternam effatur ad aurem
Risit, & an tantus te latet auctor? ait.
Tot Veneres meminisse tuas, propriamque Parentem
Si potes, & Vaeni tu memìnisse potes.
Quod sibi Praxiteles de me licuisse putauit,
Corporis hoc nudi cum similauit ebur;
Hoc quoque permisit de te sibi Vaenius audax,
Pictori & Vati quod lubet, omne licet.
Adspice quicquid humus, quicquid creat vnda, vel aër,
Adspice quot facies discolor orbis habet;
Ars quoque tot species effingit & aemula formas,
Saepius & matris filia vincit opus.
Affabra quos tauros non lusit vacca Myronis,
Quas non vitis aues, carbase picta viros?
Quod licuit priscis, cur non praesentibus annis?
Non solet artifici longa nocere dies.
Crescit, & ingenium vires acquirit ab aeuo,
Tu quoque te puero nequior ipse cluis.
Apta dies fructus maturat in arbore, messes
Serior Autumnus & bona musta vehit,
Candidus & simplex imberbi sub Ioue Mundus
Qui fuit, ah quantum nunc vafer ille sapit!
Canicie viridi succreuit & Arte magistrâ,
Creuerunt arcus & tua tela puer.
Mille ioca, & fraudum creuerunt mille figurae,
Et mirum, has VaenI mirè operosa manus
Pingere si potuit viuoque animasse colore!
Quo sine, tu caecum nil nisi funus eras.
Nulla Deûm Deitas, si non notescat ab vsu,
Nullum Numen adest, si modo cultus abest.
Hoc tibi cum nostri dederit sollertia VenI,
An potes auctori non bonus esse bono!
Haec Venus. Erubuit picto tener ore Cupido,
Terque agili pennâ, ter pede planxit humum.
Maternumque priùs male quem culpabat Apellem
Mox amat, & gemini fratris ad-instar habet.
Max. Vrientius.
オットー・ファン・フェーンのアモルたちについて
裸のアモルは、いろいろと身をやつして人々の前に
あらわれようとし、そしてさまざまな苦しみを作り出してきたし、
鉛の鏃✒に心を揺るがす苦味を数多く混ぜてきたし、
甘い蜂の巣に浸した黄金の鏃にさまざまに色を添えてきた。
これを知るアモルは、あちこち芸術家を尋ね歩き、
そのうちたまたま女神ウェヌスと出会ってしまう。
アモルは立ち止まると、母親の耳にその窮状を訴えた。すると、
女神は微笑みこういった。「あの大家がお前の目に止まらないのかな。
自分がもたらすいろいろな愛と自分の親が誰かが
わかっているなら、フェーンのことも知っているはず。
プラークシテレース✒は、大理石でこの私の裸体の似姿を作ったとき、
私の許可を得ていると考えましたが、
フェーンは大胆にも同じように考えて、画家にして詩人である自分がやりたいことは
何でもお前が許してくれていると思っている。
大地から、海から、そして空から生まれたものをなんでもよいから見てごらん。
目を向ければ、世界にはなんと多彩で多種の姿があることか。
<技>✒もまた、数多くの姿を描き、負けじと形に表現し、
そしてしばしば娘が母よりもすぐれた作品を作るのです。
巧みに作られたミュローンの牝牛✒はなんと数多くの牡牛を騙し、
ブドウ✒は鳥たちを、そしてカーテンの絵は人間を欺いたことでしょう。
月日の隔たりがあっても、芸術家には問題にならないものなのです。
時がたつと才能は増し、力を付けてくれるのですから、
その点では、お前は、子供よりも役立たずといわれてしまうわね。
でも時期がくれば、樹には実が熟し、秋も深まれば
刈り入れと未発酵ワインが待っている。
髭のまだ生えないユッピテル神✒の頃の世界は、単純で
飾りもなかったのに、洗練された今の世界はなんと技巧にあふれていることか。
世界は若い<輝き>✒と女主人である<技>から育っていったし、
若者はお前の弓と矢によって大きくなっていった。
幾千もの愛の戯れと、幾千もの愛の手管の姿が生まれた。
そして驚くべきことに、フェーンの巧みな手は、
それらを描き、あら不思議、生き生きした色で息を吹き込めるのです。
この人がいなかったとき、 お前は盲目の死体も同然でした。
信者がいないなら、霊験あらたかな神でないし、
祭られないなら、そこには神性はない。
われらのフェーンが腕をふるったこの作品をお前に捧げようというのに、
お前はこの素晴らしい作者に好意を示せないのかい。
この方がフェーン」。若いアモルは自分の顔が描かれているのを見て恥ずかしくなり、
翼を三度ばたつかせ、土を足で三度ける。
そしてアモルは、かつて不当に非難していた、産みの母であるアッペレースを
すぐに愛するようになり、双子の兄弟の姿を手に入れる。
マックス・ウリエントゥス✒
〖注解〗
鉛の矢:アモルは二種類の矢をもっている。ひとつは、恋心を起こさせる黄金の鏃のついた矢で、もう一種類は、恋心を心から取り去る鉛の鏃がついた矢。
プラークシテレース:〔前370-前330年頃活躍]ギリシアの彫刻家。やわらかで優雅なS字状の輪郭をしたウェヌスの立像の制作者で、『クニドスのアフロディーテー』、 『アルルのヴィーナス』 は著名。参考「私の裸姿をパリスも、アドーニスもアンキーセースも見た。この三人以外は/私には覚えがないのに、プラークシテレースはどこで私の裸を見たのかしら」(『ギリシア詞華集』16巻168歌)。『ギリシア詞華集』は古典時代から中世(東ローマ帝国時代)のギリシア語で書かれた短い詩(おもにエピグラム[➽アモル番])を約4500篇、集めたもの。16世紀にこの詩集がラテン語に訳され、耳目をひき、エピグラムは16-17世紀に全盛期を迎えることになる。
<技>:母親とは<自然>、娘は<自然>から生まれた<技>。ルネッサンス期には、自然と技は一組の対立観念であった。自然は、造られたものというよりも、たえず創造行為をいとなむものとして意識された。そのため自然は、人間の創造創作行為である<技>と対立関係にあった。
ミュローンの牝牛:〔前460-前430年頃〕ミュローンは古代ギリシアのブロンズ彫刻家。写実性にあふれた作品を残し、なかでも『黄金の牝牛の像』については、本物と見まがうと絶賛された。参考 「もしも仔牛が私を見たなら、モーと鳴き、雄牛なら私の体と交わり、/牛飼いなら、牛の群れへと私を駆り立てることでしょう」(『ギリシア詞華集』9巻730歌)。
ブドウ:古代ギリシアの画家ゼウクシクが舞台の背景画にブドウを描いたところ、それを本物と見誤って鳥が飛んできた。その絵のブドウが少し隠れるように、画家パッラシオスがカーテンを描くと、その事情を知らなかったゼウクシクは、ブドウがよく見えるようにカーテンをひいてくれ、といった。(プルニウス『博物誌』35巻36節)
ユッピテル神:通例は髭を生やした壮年の顔をしており、髭を生やしていない青年のアポッローと対比される。ここでは、ユッピテルの支配した銀の時代をさし、この時代になって初めて四季が生じ、農耕が始まった。
<輝き>:原文は canicie となっているが、当該単語は見当たらないため、candore と置き換えて読んだ。
アッペレース:[➽「オットー・ファン・フェーンの描いたアモルたちについて」 コス島の手]
マクシムス・ウリエントゥス (Maximiliaan de Vriendt):〔1559-1614年〕終生、母国オランダを愛した人文主義詩人。『エピグラム集』(11巻)は、古典知識に裏付けられた気品ある詩集。そのほとんどすべてが知人に宛てた詩からなっており、その交友関係の広さがうかがえる。
❁参考図❁

プラークシテレース「クニドスのアフロディーテー」(紀元前4世紀, 17世紀の模像作)