◇愛のエンブレム◇ 118

ET ANNOSA CAPITVR VVLPES.

Quid non vincit Amor? quid non puer alme coërces?

Qui vulpem annosam vincula ferre doces.

Non robur iuuenes, non experientia canos

Eximit, æquali quos libet arte capis.

狐は齢を重ねても、捕まる。

愛を負かすものがあろうか。アモルよ、生きる力を授ける少年よ、君を抑えつけられるものがあろうか。

  君は齢を重ねた狐に、鎖につながれることを教えている。

若者は力が強くとも、また白髪の老人は経験があるからといっても、

  君から逃れられない。なにせ君は、気に入った相手を、相手に合わせて捕まえる技をもっているのだから。

歳老いた狐はしばしば騙される

   ほらごらん、アモルがときに年老いた狐に罠をかけるさまを。

狐が逃げようとしている間にアモルが矢で射るさまを。

アモルの仕掛けた罠にはまるのは、若者だけではなくて、

策略に用心深くあろうとする狡猾な老人もなのだ。


❁図絵❁

 アモルが放った矢は、森に逃げようとする老狐の脇腹に刺さっている。射止めたこの狐の他に、切り株に仕掛けた罠にはまった老狐がいる。

❁参考図❁

ミヒル・スウェルツ (Michiel Sweerts)「休息する狩の一行」1651年頃

 ウサギ狩りから戻った男性が、庭に広げた敷物の上で、喉の渇きを癒し疲れを取りながら、若い女性を見つめている。男性は女性を意識しているが、女性の方は硬い表情で、男性の視線とは別な方向を向いている。ウサギは勝ち取っても、女性の心は勝ち取っていないかのようだ。


〖典拠:銘題・解説詩〗

典拠不記載:参照 エラスムス「狐は齢を重ねるとけっして捕まらない」(『格言集』1巻10章17番[➽13番])。

典拠不記載:

▶比較◀

老い:「()りにし(おうな)にしてや かくばかり 恋に沈まぬ 手童(たわらは)のごと」(万葉集 石川郎女(いしかわのいらつめ) 129)。<大意>「自分はもう分別のある老女だと思っていたのに、貴男(あなた)をこんなに深く愛してしまっている。まるで幼女のようです。年老いても、湧いてくる恋心はどうしても抑えきれない」。この歌は、まさにアモルには「相手に合わせて捕まえる技」があることを示している。老女は自身の年齢と経験から、恋に溺れることはないだろうという自負があったにもかかわらず、アモルの「技」によって、その心の隙を突かれ、恋に囚われてしまったのだ。これは、アモルが相手の年齢や経験を問わず、等しくその支配下に置けるだけの技量をもっていることの証といえる。


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