◇愛のエンブレム◇ 72

POST NVBILA PHŒBUS.
Post Boream Zephyrus, surgit post nubila Phœbus;
Cùm desævit hiems, tum aequora strata iacent:
Non prius, inuideæ quàm cesset sæva procella
Fortunæque atrox turbo, quiescet amans.
曇りのち晴れ。
北風の後には西風✒が吹き、曇った後には陽がさし、
暴風雨になっても、いずれ海は凪ぐ。
それに似て、嫉妬の吹きすさぶ嵐も、<運命>の激しい竜巻も、去ってしまえば、
愛する者の心は落ち着くことだろう。
嵐の後には凪
海は、風がおさまるまでけっして静まることはない。
そんなふうに、恋するものの心は、<運命>の怒りがおさまって、
嫉妬がその力を失うまでは決して安らぐことはない。
災いの原因が除かれると、災いはすぐさま止んでしまうのだ。
❁図絵❁
アモルは、暴風で荒れ狂う海から避難し、持物の弓と矢筒を地面において、木陰に寄り添って避難している。海上の乱雲の間に見える顔は風神で、海面に息を吹きかけて海を荒らしている。
❁参考図❁

ヨハネス・フェルメール (Johannes Vermeer)「ラブレター」1667-68年
リュートを弾いていた女性は、女中から手紙を渡されたようだ。その手紙の内容は、女性の後ろの二枚の絵が暗示している。上の絵には自然の中をさまよう男性が、下の絵には晴朗な海を進む帆船が描かれている。上の絵の彷徨は、失恋して恋人から離れているための痛み、そして恋人とのよりをなんとか戻せないかという望みをあらわしている。これに対して下の絵の帆船(男性)は港(女性の胸)への向かっていることを象徴している。画面手前の楽譜は乱雑にめくれているが、音楽を奏でることを手紙のために一時停止した女性の心は、これまでの不和を解消して、和解へと向かうのもしれない。
〖典拠:銘題・解説詩〗
典拠不記載:参考「曇りのち晴れ」”post nubile solem”、「雨のち晴れ」”post pluvium Phoebus”といった表現も同じ。なおフォエブス(Phoebus)は太陽神のこと。
典拠不記載:
〖注解〗
西風:北風が吹く冬が終わり、春になると西風が吹き出す。
▶比較◀
風雨::「世の中寂しく思はずなることありとも、忍び過ぐしたまへ。恨めしげなるけしきなど、おぼろけにて、見知り顔にほのめかす、いと品おくれたるわざになむ」(『源氏物語』若紫下)。「夫婦の仲が思うようにいかず淋しい時があっても、じっとこらえておいでなさい。いい加減な噂で、はっきりともしないのに気を廻して、何もかも知っているようなふりをほのめかし、恨めしそうな顔つきを見せるのは、品の悪いことです」(瀬戸内寂聴)。朱雀帝が、光源氏の妻の一人である女三の宮に宛てた手紙。源氏は出家をしたいという妻・紫の上の気持ちをなだめるべく、ともに過ごす時間を増やす。それに反比例して女三の宮との間がしだいに疎遠になっていく。気持ちの沈む宮に、帝がわざわざ手紙を送り、源氏との仲はやがて修復するから、源氏の心変わりを恨むような素振りを見せないようにと諭している。しかし三の宮のうつ状態は、そこにはなかった。源氏の幼馴染である柏木と関係を持ち、懐妊してしまった。夫・源氏への操を守れず裏切ってしまったこと(<運命>の激しい竜巻)に悲嘆に暮れていた。そして偶然から源氏は、柏木との不倫を知り、柏木に対して「吹きすさぶ嵐」ともいうべき強烈な嫉妬を抱く。
