◇愛のエンブレム◇ 97

P. Syr. AMORIS FRVCTVS ATQVE PRAEMIVM SOLA
QVANDOQVE COGITATIO EST.
Mente mihi es præsens, licet absis corpore, mente
Te fruor, & totos te gero mente dies.
Me tua ieiunum saltem satiabit imago,
Si Superi iungi corpora nostra vetent.
Menand. Amare liceat, si potiri non licet.
プーブリウス・シュルス ただただ想うことが、愛を結ぶ実、愛への報いとなる。
体がここにいなくても、君は僕の心の中にいて、心の中で
僕は君と楽しみ、心の中で来る日も来る日も君を想っている。
僕たちが一体になることを、神々が禁じても、
君の姿があるので、僕は飢えてはいても、なんとか満足していられるだろう。
メナンドロス たとえ自分のものにできなくとも、愛することは許されるますように。
想いで満足
愛への報いは、恋人への想いでしかないことがしばしば起こる。
自分の愛する人の愛らしい顔を心の中で念じて、
たとえ恋人がその場にいなくとも、そこにいるのだと思う。
それがただただ愛によって得るすべてで、それ以外には何もなくとも。
❁図絵❁
アモルは、弓も矢も床に投げ出して自分の仕事を忘れ、ほおづえをつきながら、恋人の肖像画を見て、物思いに耽っている。なおこの恋人は男性との交わりを一切避ける処女神ディアーナの姿で描かれている。
❁参考図❁

レンブラント (Rembrandt)「ヘンドリッキエ・ストッフェルス」1650-55年
この女性は、画家レンブラントが妻を亡くした数年後に女中として仕えていた人物。レンブラントはこの女性をモデルとして「水浴する女」などいくつもの作品を残している。そして画家はただ想うだけでなく、この女性との間に一女をもうけた。ただし終生、入籍することはなかった。
〖典拠:銘題・解説詩〗
プーブリウス・シュルス:[➽31番]未詳。
典拠不記載:
メナンドロス:実際にはアープレーイウス[➽16番]の断片詩『アネーコメノス』(1行および24行)。自分の恋する女が、すでに他の男のものであっても、その男には嫉妬せず、その女の美貌や体を想いながら愛し続けることができると、歌われている。
〖注解〗
メナンドロス: 〔前342/341-前291/290〕アリストパネースと並び称される古代ギリシアの劇作家。ローマの喜劇作家テレンティウス[➽21番]はこの作家を強く意識した。約100編制作したが、16-17世紀には完全な作品としてではなく断片でその作品の存在が知られていた。それら断片には日常生活に対する警句や皮肉があふれている。
▶比較◀
想っている:「わが身こそ うらみられけれ 唐衣 君が袂に 馴れずと思へば」(『源氏物語』29 行幸)。「このわが身こそ真実 うらめしくてならぬ いつもあなたのお側に おいていただけないと 思うにつけて」(瀬戸内寂聴訳)。醜女だが義理堅い末摘花が、光源氏が養女にした玉鬘の成人のお祝い(御裳着)に衣装一式を贈る。その衣装のなかに挟んであったのがこの歌で、女はすでに足が遠のいている源氏に対して、想いの力だけで満ち足りた愛を紡ぎ出せず、物理的な距離に比例して愛が恨めしい執着心になりつつある切なさを表現している。
