◇愛のエンブレム◇ 2

Arist.     PERFECTVS AMOR NON EST NISI AD VNVM.

Vnum amat, en effert vnum, vnum ecce coronat,

 Et reliquos numeros, en, pede calcat Amor.

In plures quoties riuos deducitur amnis,

 Fit minor, atque vndâ deficiente perit.

Ouid.       Elige cui dicas, tu mihi sola places.

アリストテレス  愛は、一つに向かわないかぎり、完全ではない。

アモルは一を愛し、ほら、一を生み、見よ、一に冠を(かぶ)せ、

 ほら、一以外の数を足で踏みつけている。

河がたくさんの小川へと流れ込めば、

 小さくなり、そして水もなくなり、消えてしまう。

オウィディウス   「君だけが好きだ」といえる女を選べ。
ただ1のみ

 アモルが権利として求めるのは、ただ1という数字だけ。

そのほかの数字は足元にしく。

愛する者はただ一人だけを愛すべきだから。

川の流れも分散すれば、その力が萎えてしまう。


❁図絵❁

 アモルが路上で1を除いた10までの数字が書かれている板を片足で踏みつけながら、その板を見つめている。アモルは左手では、数字の1とその上に草冠が書かれた板をかかげている。

❁参考図❁

フェルメール「バ―ジナルを弾く女性」1670年頃
 鑑賞者である私たちの方向に視線を向け、画面手前の空席に私たちの「一人」を誘う女性。壁には同じく私たちの方を向き、カードを掲げたアモルがいる。フェーンの図絵と似ているが、この絵ではカードには数字はなく、またアモルは別なカードや板を踏みつけていない。アモルはやや滑稽な斜視になっているとはいえ、「一人」を暗示していることは間違いない。なおバージナル(ハープシコードの一種)は女性が弾く楽器 [➽114番]。


〖典拠:銘題・解説詩〗
アリストテレス:未詳。
典拠不記載:
オウィディウス:『恋愛術』1巻42行。ここでは、恋人を探し、口説き、恋を長持ちさせるために、まず女が集まる場所に行けと勧めながら、どういう女を探すかを教えている。
〖注解〗
アリストテレス:〔前384年―前322年〕古代ギリシア最大の哲学者の一人。その広範囲にわたる膨大な数の著作のなかでも、ルネッサンス期に知的サークルでもっと読まれたのは、模倣を創作の本質として説明した『詩学』と、理性と中庸そして寛大さの必要を説いた『ニコマコス倫理学』[➽8番]、また『動物誌』[➽115番]がよく読まれ利用された。

『恋愛術』:愛を成功させる方法を多方面にわたり教示する。詩人の教えはお笑いとおふざけに満ちているが、男女の機微についての鋭い洞察にあふれ、また男女関係そのものをいつも肯定的にとらえている。第1-2巻は男性に向けたアドバイスで、女性の選び方、女性を満足させる方法、女性を気変わりさせない方法が説かれている。第3-4巻は女性に宛てた忠告で、着こなしから夫のだまし方まで教えている。なおこの本は中世の女子修道院で最も読まれた書と、中世文学研究の泰斗C. S. ルイスは述べている。
▶比較◀
 一:「君は、人一人の御ありさまを、心の中に思ひつづけたまふ。「これに足らずまたさし過ぎたることなくものしたまひけるかな」と、ありがたきにも、いとど胸ふたがる」(『源氏物語』 帚木(ははきぎ))。「源氏の君はただ一人の恋しいあるお方のことを、心の中に思いつづけていらっしゃいます。あの藤壺の宮こそ、今の話のように、すべてにおいて過不足の全くない稀有(けう)なお方だと思われます。そう思うといっそう恋しさで胸の中が(ふさ)がれ苦しい思いをなさるのでした」(瀬戸内寂聴 訳)。光源氏は、最低に見積もっても12人の女性と関係をもったが、生涯忘れることのなかった女性は、自分の母の面影をもつ藤壺の宮ただ一人であった。藤壺の宮は、光源氏の父・桐壺帝の后であるために、光源氏にとっては継母であり、妻とすることは不可能であった。そうした(かな)わぬ恋の代替として、さまざまな女性を愛することで心の空白を埋めようとしたと考えると、光源氏は「ただ一人だけを愛していた」と好意的に解釈することもできる。

◇愛のエンブレム◇ 65
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