◇愛のエンブレム◇ 68

FLAMMESCIT VTERQVE.

Lucret.  Exprimitur validis extritus viribus ignis,

Et micat interdum flammai feruidus ardor,

Mutua dum inter se rami stirpesque teruntur.

互いに燃え上がる。

ルクレーティウス 枝と幹を互いにこすり合わせるとき、

力を入れて擦(す)りあわせると火が起こり、

炎の激しい熱が互いに伝わる。

愛は愛を燃え上がらせる

木のなかには、同じ種類の木でこすると、

まず最初に熱が出て、熱が高くなって火がつくものがある。

そのように恋するもの同士も、目があうと熱い気持ちが大きくこみあげてきて、

やがて愛の力が高まると、二人の心は炎で燃え上がる。

❁図絵❁

アモルが二本の枝の中央部分をこすり合わせている。そのすり合わせた箇所から炎が上下左右に立ちのぼる。

❁参考図❁

ディルク・ハルス (Dirck Hals)「荘園の宴会」1627年

11組の男女が邸宅の庭園でパーティを楽しんでいる。料理が出され、楽器演奏が続く中で、これらの男女は手を握り、肩を抱き合い、話に興じている。カップル同士の愛が、互いに相乗効果を生んで、ここは愛の園さながらになっている。


〖典拠:銘題・解説詩〗

典拠不記載:

ルクレーティウス:『事物の本性について』5巻1098-1100行[➽9番]。この世の事物が原子からできているという着想から、神ではなく物質による世界の生成が歌いあげられる。そしてここでは、火は、落雷や樹木同士の摩擦によって、人間にもたらされたと述べている。

〖注解〗
:「火を擦る」は、一見すると両者の間柄は和やかだが、実際には不和であることをいう。これは、お互いの摩擦によって軋轢(あつれき)という火が発するから。別説では、機織りの()を火に重ね、杼で渡した緯糸(よこいと)に、経糸(たていと)を打ちこむ(おさ)は互いに擦れ合うことがあっても同じ箇所にとどまらないことに由来する。

▶比較◀

:「冬ごもり 春の大野(おおの)を 焼く人は 焼き足らねかも わが(こころ)焼く」(『万葉集』作者不詳 1336)。「冬も終り春になった大野を焼く人はあれほど焼いても足りないからか、私の心まで焼くことよ」(中西進訳)。春になってよく乾燥した日に、男たちが野原に火を放って、草木を焼いてその灰を肥料とする。その燃え盛る炎に、自分の恋する心の炎をたとえている。「焼く人」は野だけでは焼き足らないのか、私の心まで焼いている。「冬ごもり」は春にかかる枕詞、また大野は地名ではなく、野原を十分に焼くこと。

◇愛のエンブレム◇ 65
Read more
◇愛のエンブレム◇ 題銘一覧(邦訳版)
Read more
◇愛のエンブレム◇ 題銘一覧(英訳版)
Read more
エンブレム集抄訳
Read more
◇愛のエンブレム◇ 図書検閲済
Read more
◇愛のエンブレム◇ 124
Read more