◇愛のエンブレム◇ 70

Tibull.  QVIS ENIM SECVRVS AMAVIT?

Plutarch.       Vt flamma nec premi potest, nec quiescere: sic leuis atque inquietus semper amantis est animus.

ティブルス     恋をしていて、いったい誰が安心していられるか。

プルータルコス   炎が、押しつぶされて静かに消えることがないように、恋する心はいつもそわそわと揺れ動くものなのだ。

愛は静けさを欠く

  火はその炎をゆらめかせ、ぴくりとも動かぬというわけにはいかず、

前後に揺れ、決してじっとしてはいない。

同様に、恋する心は、愛のためにうわの空となってさまよう。 長く生きようなどと望みもしないし、そんなつもりもないから。


❁図絵❁

アモルは、盛んに燃え上がるたき火の横に立ちながら、大きなトング(はさみ)を使って、炎をつかんで消そうとするが、無駄に終わっている。恋の炎は消えずにしっかり残ってしまう。

❁参考図❁

ヨアヒム・ウテワール(Joachim Anthonisz Wtewael)「台所の場面」(部分)1605年

調理場のドア越しの向こうでは宴会が開かれている。召使たちたちが魚・鳥などの食肉や野菜などの食材を忙しく準備、調理をしている。ところが調理場の炉辺で火加減をみる女中は、男性召使に体を触られているが、その顔は天井の方を喜びながら見ている。炉の火と同様に、愛の炎は燃えさかる。


〖典拠:銘題・解説詩〗

ティブッルス:[➽12番]実際にはオウィディウス[➽世番]『名高き女たちの手紙』第19歌10行。この歌は、アプロディテ女神の巫女ヘーロー[➽9番]が恋人レアンデルに宛てた書簡。人目を忍んで会うために、毎夜ヘレスポントス海峡(現ダーダネルス海峡)を泳いで渡ってやってくるレアンデルに対して、今頃、どうしているのか、溺れてはいないかどうかとヘーローが不安を漏らしたときの言葉。詩人ムーサイオスがこの二人について歌った詩があり、そこには「セストスへ来たならば、ヘーローが灯をかかげた塔を探してください」という有名な言葉がある。

プルータルコス:出典未詳。

〖注解・比較〗
名高き女たちの手紙』:愛が結婚にまで至らなかった著名なカップルのうち、おもに女性から男性に宛てた手紙という形式で、その深い愛情を綴る書簡体詩。

:「残り火は必ず燃えあがるものだし、炎は、人を平静にはしておきません」(小山祐士『二人だけの舞踏会』[1956])。かつての恋人への想いが再び燃え上がり、心が乱れること。


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