◇愛のエンブレム◇ 74

CRESCIT SPIRANTIBVS AVRIS.
Sumit flamma nouas Borae spiramine vires:
Si Domina aspiret, sumam & ipse nouas.
Aspira ergo meis facilis conatibus, addat
Aura serenantis plena fauoris opem.
風に吹きつけられて、大きくなっていく。
北風の口から息がもれると、炎は新たな勢いを手に入れる。
僕にもあの女性の息がやさしくかかれば、新たな力が湧きあがるだろう。
だからためらわずに僕のすることに息を送ってください、晴れやかな好意の
いっぱいつまった息を送って助けてください。
好意によって愛の力は増す
炎は風に吹かれると火炎を大きく上げるが、
同じように、優しい言葉をもらす愛の快い息は
いっそう愛を大きくし、愛を貴重なものにする。
愛とは好意によって養われてこそ、さらに大きく膨らむのだ。
❁図絵❁
アモルが小枝の束を抱えて、燃えさかるたき火にその束をくべようとしている。空の雲間から風神が、たき火に向かって風を送っている。
❁参考図❁

レンブラント (Rembrandt)「マリア・トリップの肖像」 1639年
アムステルダムの富豪トリップの娘(20歳独身)の肖像。この女性は2年後に30歳年上の富豪に嫁いでいくが、夫はこの新妻から優しい言葉をかけられて、新たな力が湧いたかもしれない。
〖典拠:銘題・解説詩〗
典拠不記載:
典拠不記載:
▶比較◀
息:「今は吾(あ)は 侘(わ)びそしにける 気(いき)の緒(お)に 思ひし君を ゆるさく思へば」(紀女郎『万葉集』644)。「今や私は辛い思いに沈むことだ。わが命とも思っていたあなたを、遠ざかるにまかせようと思うと」(中西進訳)。「気の緒」とは、「気」=息=生きに通じ、また「~の緒」は~が連続することを意味するので、自分が生きていられるということ。紀女郎が自分の命を支える拠り所と思っていた夫・安貴王が、別な女性と恋仲になったことを恨んでいる。恋仲の相手は八上采女であった。采女とは、天皇の身の回りの世話をするために地方から選ばれて宮廷に仕えた女性。したがって女性は女性でも、天皇だけが関係を持てる女性であった。そのために、紀女郎の夫は不敬の罪にとわれる。それでも夫が采女を諦めきれないので、紀女郎はそんな夫を許せない(「ゆるさく」=許すの名詞形)。ただしこの怨念にもかかわらず、紀女郎は息が絶えることなく、生きながらえたようだ。
