◇愛のエンブレム◇ 83

P. Syr. CELEREM HABET INGRESSVM AMOR, REGRESSVM TARDVM.
Plutarch. Amor ingressus non facilè discedit, quamuis alatus, nec penitus liberam relinquit animam, remanetque in ea vestigium, veluti siluæ exustæ aut fumantis, neque penitus ex ossibus eijcitur.
プープリウス・シュルス 愛は素早く入ってくるが、出ていくのは遅い
プルータルコス 愛はいったん中に入ると、羽をはやしてはいるがなかなか出ていかず、ちょうど煙を上げて焼きつくされる森のように、心の奥が自由であるのを許さず、その足跡を心に残し、骨の髄からも追い出されることがない。
出発するのに遅く
アモルは急いでやってくるが、ゆっくりと去っていく。
アモルは自分の帰りを押しとどめる理由を素早く見つける。
<希望>によってアモルは、いればいるだけ慰めがあると信じこまされている。
別れる時の苦痛を恐れるあまり、アモルは立ち去るのを嫌がるのだ。
❁図絵❁
アモルが家から外に出て行こうとしている。しかしアモルの二枚の羽はひもで縛られ羽ばたけず、片方に義足をつけ、杖をついていて、その歩みは遅々として進まない。アモルは家の中で針仕事をしている女性を眺めている。
❁参考図❁

カスバル・ネッツェル(Caspar Netscher)「レースを編む女」1662年
女性がレースを編んでいるが、頭のかぶり物のデザインは、握っている手なので、このデザインからこの女性が既婚かあるいは結婚を考えていることがわかる。ほうきは家の掃除を、そして裸足と足下のムラサキガイは主婦として家にとどまるべきことを暗示している。
〖典拠:銘題・解説詩〗
プープリウス・シュルス:[➽31番]不詳。
プルータルコス:[➽35番]未詳。
〖比較〗
出ていくのは遅い:「形見こそ 今はあたなれ これなくば 忘るる時も あらましものを」 (詠み人知らず『古今集』746)。<大意>もう頼める間柄ではなくなった貴方が、私のためにかつて置いていってくれたものを、私は貴方の形見として見ることになる。貴方のものは、今となっては私を苦しめる仇(あた)・敵です。もしこの品物がなかったならば、諦めた貴方のことも、貴方と別れた悲しみも、忘れる時があるだろうになあ。破れた愛であっても、この女性がその愛を捨てきれずにいるのは、愛が心の奥底にまで達し、骨の髄まで染み込んでいて、自分の意志ではそれを取り除くことがもはや不可能になっているからだろう。
