◇愛のエンブレム◇ 87

Virg. ALBA LIGVSTRA CADVNT, VACCINIA NIGRA LEGVNTVR.
Ouid. placuit Cephëia Persei
Andromade, patriæ fusca colore suæ.
Virg. Et violæ nigræ sunt, & vaccinia nigra.
ウェルギリウス イボタ樹✒の白い花は落ち、ベリー樹✒の黒い実は摘まれる。
オウィディウス ペルセーウス✒は、ケーペウスの娘アンドロメダが
気にいったが、その膚には生まれ故郷の浅黒さがあった。
ウェルギリウス スミレも色黒だし、ベリー樹も黒ずんでいる。
黒みがかった実は甘い味がする
アモルは、いつも一番きれいな白を目がけて狙うわけでなく、
かわいらしい浅黒い色を目がけて、ずいぶんと何度も弓を絞る。
身のこなしのよさ、姿の美しさ、そして自分を喜ばせるものが
えり好みにあることを、アモルはきちんとわきまえているのだ。
❁図絵❁
浅黒い色をしたアモルが、色白のアモルに目がけて射た矢がその胸に命中し刺さっている。刺された色白のアモルには、浅黒いアモルへの恋の情が芽生えて、じっと見つめている。この色白アモルが跪いてむしり取ろうとしているのが、ベリー樹の浅黒い実。
❁参考図❁

ハブリエル・メツー (Gabriel Metsu)「朝食の恋人たち」1661年
色白の女性が黒みがかった実を右手でつまんでいる。その女性の肩に浅黒い男性が手をかけ、フルート型のワイン・グラスを持ち上げている。男性の浅黒さは光が当たる方向の加減かもしれないが、顔色の対比は明らかである。なおこれはメツゥとその妻の肖像画ともいわれている。
〖典拠:銘題・解説詩〗
ウェルギリウス『牧歌』2歌18行[➽3番]。羊飼い(男)が若者に恋をするが、その若者はすでに羊飼いの主人(男)のお気に入りだった。羊飼いは悶える心を、猛暑のなかの牧場を歩きながら歌っている。引用は、羊飼いが若者にむかって、言い寄られても自分の若さと美しさにおごって相手を冷たくあしらうことを警告したもの。
オウィディウス:[➽世番]『名高き女たちの手紙』15歌35-36 行[➽70番]。この巻は、レスボス島の女性詩人・巫女サッポー(同性愛者)が、同じ島の渡し守りの青年パオーンに、同性愛を越える深い恋慕の情を感じていること告白している。自分は色白ではないが、アンドロメダもそうだったと述べ、さらに白鳩は白くない鳩と、浅黒いキジバトはすばらしい色の同類とつがいになると述べている。なおサッポーは、この15歌末尾で暗示されているように、この青年に拒まれ、レスボス島の断崖から投身自殺をする。
ウェルギリウス:『牧歌』10歌39行。恋人(女)に見捨てられた羊飼い(実は軍人政治家)が、羊飼い(男)たちとよい仲になって失恋の気持ちを紛らわせようと心情を吐露したとき、「ところで、相手の羊飼いは色黒だが、それがどうした」と、やや諧謔的に述べている。
〖注解・比較〗
イボタ樹:(ligustrum)真っ白い小さな花が立房状に咲き、その後、黒い小粒の実をつける常緑低樹。山地でも育ち、太い枝振りになる(参照 プリーニウス『博物誌』16巻31章[➽115番])。

ベリー樹:(vaccinium)日本でもみかけるようになったブラックベリー樹の一種。実は濃い紫色か艶のあるやや薄い赤色をつける。ただし桜樹(Prunus mahaleb)だとすると、実は数ミリ程度と小さい。
ペルセーウス:[→15番]メドゥーサの首を奪った英雄。この勇者は、母ダナエーのもとへ帰途中にエティオピア王ケーペウスの王女アンドロメダが海獣に人身御供にされるのを目撃する。英雄は王女に一目惚れし、海獣を倒し、王女を妻とする。
白:「[傾城の]道に長ぜる人は、傾城の色くろきとてきらはず。……むかしあめがしたしろしめしたる君は、女の顔のいたくしろきをきらはせ給ひて、あさぐろきをこのませ給へり」(藤本箕山『色道大鏡』〔1678〕巻第3)。<大意>「遊女との交際に長けた人は、遊女の肌の色が黒いからといって嫌ったりはしない。……昔、天下を治められた天皇は、女性の顔があまりに白いのを嫌って、少し浅黒いほうをお好みになった」。女性通の男性は、遊女の肌が浅黒いからといって、その女を避けることはなかった。またかつては天皇にも、むしろ浅黒い女を好む方がいた。美男美女は色白と相場がきまっていたのに、あえてここで玄人好みの趣向を披露している。「うつくしき 其ひめ瓜や 后ざね」(松尾芭蕉(山下水)1682年以前)。<大意>「姫瓜に子どもが描いた美しい瓜実顔は、后となるのにふさわしい顔立ちだ」。姫瓜は真桑瓜の一種で大きさが小さく、子どもが墨やおしろいでその表面に顔を描いて玩具にした。また瓜実顔は色白で、細長い顔をいう。
