◇愛のエンブレム◇ 89

MORBVM NOSSE, CVRATIONIS PRINCIPIVM.

Sanus Amor morbum nosse ægro suadet Amori,

 Consulto & medico in tempore poscere opem.

Morbum quippe suum nosse est pars prima salutis,

 Quem metuens, perijt, prodere creber amans.

病であったと認めることが、治療には肝心。

元気なアモルが、病んでいるアモルに向かって、病であったと認め、

 この時機に医者に処置してもらえば助かると説得する。

自分が病気だったと認めるのは、もちろん健康への第一歩。

 恋の発見を恐れて、死んでしまった人はなんと多いことか。

見せると癒される

  傷を受けて重い痛みがあるなら、外科医の目の前で

自分の辛さを恥じずに見せ、その傷をさらけ出す。

そのように、自分の心の歎きを君の恋人に見せよ。

君の病を知ってもらえることは、健康への第一歩だ。


❁図絵❁

 健康そうなアモルが、病んだアモルのために、フラスコに入った尿を検査している。病んだアモルは、右手で刺さっている矢を示し、そして左手を差し出しながら病状を訴えている仕草をしている。

❁参考図❁

サミュエル・ファン・ホーフストラーテン (Samuel van Hoogstraten)「医師の往診」1660-1670年頃

 青白い顔をした女性がイスに深くもたれかかって座っている。後では医師が尿を検査している。尿検査は、現代の血液検査と同じく、病気診断のための検査の常道であった。この絵画はかつて「貧血の女性」という題名であったが、女性の病気は貧血ではない。女性の足下にいるネコ(女性の烈しい性欲の象徴)と壁に掛かった裸体のウェヌス像が暗示するように、子宮に精液が十分に供給されていないため起こるヒステリー(女性だけに見られると考えられていた痛み、不安、胃腸症状)として描かれている。


〖典拠:銘題・解説詩〗

典拠不記載:参考「病人が健康になるためには、まず病気を知り、医者が処方する薬を進んで飲むことです」(セルバンデス『ドン・キホーテ』第2巻60章)。

典拠不記載:

▶比較◀

:「死出の山 (ふもと)を見てぞ帰りにし つらき人より まづ越えじとて」(兵衛(ひょうえ)『古今和歌集』789)。<大意>「病気をし冥土(死後の世界)への途上にありましたが、死出の山の麓を見ただけでこの世に戻ってまいりました。冷たい貴方(あなた)よりさきに、私がただ一人でこの山を越すことはするまいと思いまして」。死出の山は、この世とあの世を隔てる山で、ここでは病が高じて危うく死ぬところだったが、かろうじて死なずにすんだことを前半で述べている。この病は「気分がすぐれなくなった」と題詠にあり、その原因は明示されておらず、また本当に生死にかかわるものであったかどうか疑わしい。しかし男性の足が遠のいていることから生じる病であると積極的に自分で認知し、しかもその病が死に至る可能性があることをほのめかすことで、男性への愛の深さ、そして男性が自分のもとに通ってきて欲しいという気持ちを、後半で皮肉をこめて歌っている。


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