◇愛のエンブレム◇ 95

SVNT LACRYMÆ TESTES.
Ecquid adhuc dubitas? testis sit lacryma flammæ,
Semper vt occluso stillat ab igne liquor.
涙が証人。
何をこれほどまでに、君は疑っているのか。閉じ込められた火から
水がたえずしたたり落ちるように、涙をして炎ありの証人としてくれ。
愛の涙は愛のあかし
アモルの涙は、悲嘆の証人となり、
アモルの熱烈な愛は炎、心臓はふいご、
心の刺すような痛みから起こってくる溜息は、ふいごから出る風、
そして涙の流れる両眼は蒸留器✒なのだ。
❁図絵❁
炉の前でアモルが跪きながら、目から流れる涙を拭いている。炉にはその外面からははっきりわからないが火がついており、その熱で蒸留器が熱せられ、器内の液体が蒸気となって蒸留器の管を伝って壺の中にたまっていっている。
❁参考図❁

ベルニーニ (Bernini)「プローセルピナの陵辱」1621-22年
冥界の王プルートーは乙女プローセルピナに恋し、彼女の意に反して冥界へと連れて行こうとする。乙女はなんとかして王の手をふりほどこうとするが、それはかなわず、彼女の目からは涙が流れている。この涙は陵辱されることへの恐れと悲しみから涌きあがったものである。
〖典拠:銘題・解説詩〗
典拠不記載:参照コルネリウス・ア・ラピーデ✒「涙は不幸の証人」(『パウロ全書簡註解』(1635) 第4巻81歌5行)。
典拠不記載:
〖注解〗
コルネリウス・ア・ラピーデ:〔1597-1637年〕 ラピーデはフェーンと同時代のカトリック神学者で、聖書のほぼ全書にわたり註解をほどこした。注解にあたって利用した文献は、ギリシア・ローマ古典からヘブル語のものにまで及ぶ。
蒸留器:薬草を煎じるなどの目的で、17世紀には家庭で用いられていた道具。
▶比較◀
涙:「空蟬の 羽に置く露の 木隠れて 忍び忍びに 濡るる袖かな」(『源氏物語』3空蝉)。「薄い空蟬の羽に置く露の 木の間にかくれて見えないように 私も人にかくれて忍び忍んで あなたへの恋の切なさに ひとり泣いているものを」(瀬戸内寂聴訳)。人妻である空蟬に恋をしてしまった光源氏は、その真剣な思いを句に託して空蟬に伝える。その強い思いに空蟬の心は動かされるが、その持ち前の嗜み深さから自重し源氏の愛を拒む。源氏の涙は愛の証人であったが、愛の証人がいるからといってその想いが遂げられるわけではない。