◇愛のエンブレム◇ 96

QVOD NVTRIT, EXTINGVIT.

Vt quâ nutritur pinguedine teda liquescit,

Qua vivo, hac morior; quam pereo hac pereo.

育んでくれたものが破滅させる

燃える松明(たいまつ)が、その油で身を細らせるように、 僕の生き甲斐の

あの貴女のために僕は死に、死ぬほど愛するあの貴女のために死ぬ。

愛は滋養で殺される

    松明(たいまつ)(ろう)があってはじめて燃えつづけるが、

   松明を逆さにすると、すぐに火は消えてしまう。

   そのように、アモルの熱のおかげで恋人は生きるが、

   愛が反対を向けば、恋人は死んでしまう。


❁図絵❁

 胸を矢で射られたアモルが、逆さにした燃える松明を右手に持っている。

❁参考図❁

ルーベンス (Rubens)「パーンとシューリンクス」1617-19年

 牧神パーン(画面左)は妖精(ニンフ)シューリンクス(顔面中央)を恋し追いかける。逃げるシューリンクスが河の妖精たちに助けを懇願したところ、彼女は葦に変身してしまう。失恋したパーンは以後、もの悲しい調べの葦笛を吹きつづける。シューリンクスは葦となって二度と元の姿には戻らず、パーンももとの陽気さには二度と戻れない。


〖典拠:銘題・解説詩〗

典拠不記載:参照「後になって肉も(すじ)も消耗し、あなたは(うめ)く」(聖書「箴言」5章11節)。コルネリウス・ア・ラピーデ[➽95番]は、この箇所とダニエル・ヘインシウス[➽海番]のエンブレム「外からふたの閉まった壺が火熱を食い尽くすように、盲目の愛が僕の腸を食い尽くす」を引用しながら、「箴言」の該当箇所への注解として次のように述べている。「虫が炎に向かって飛んでいき焼き焦がれるように、男は恋をすると、その女のもとに飛んでいき焼き焦がれる」(『旧・新約聖書註解』(1630)3巻91ページ)。

典拠不記載:

▶比較◀

松明:「篝火(かがりび)に たちそふ恋の 煙こそ 世には絶えせぬ 炎なりけれ」(『源氏物語』27篝火)。「あの篝火の炎につれて立ち上る恋の煙こそ この世にいつまでも燃えつきることのない わたしの恋の熱い炎なのです」(瀬戸内寂聴訳)。秋の初め、月夜の晩に、光源氏は、自分の養女とした玉鬘(たまかずら)を訪れる。中年の源氏は、血のつながりのないこの若い娘にいつしか恋をしてしまう。しかし養女であるためにその恋はかなわない。切ない恋の思いが、庭にたかれている篝火の煙にたとえられている。なお篝火は、鉄製の籠状の入れ物に松を入れて燃やす照明具。


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