◇愛のエンブレム◇ 99

HOSPITIVM VERENDVM.

Plaut.   In hospitium ad Cupidinem diuerti, insanum est malum:

Nam qui in Amore præcipitauit, peiùs perit,

quàm si saxo saliat.

歓待は聖なる勤め。

プラウトゥス          アモルのところで泊まってもてなしを受けるのは狂気の沙汰。

愛へと真っ逆さまに向かう者は、崖から

飛び降りるよりも早く死ぬ。

愛は冷たいもてなしをする

    アモルが必ずもてなし役の主人になっている宿屋に

   泊まるつもりなら、それは賢くはない。

   そこではワインの代わりに薬を飲まされる。

   自ら危険を求めておきながら、どうやって危険から逃れられるだろうか。


❁図絵❁

マントを羽織り帽子をかぶり、長杖をもった旅人が、宿屋の前に立っている。その看板は、二本の矢が突き刺さった心臓が描かれ、その銘(通常は宿屋名)は「突き刺された者へ」になっている。宿屋のドアを開けているのは、前掛けをした宿主姿のアモルだが、壁には弓と矢があっていつでも使えるようになっている。

❁参考図❁

ヤン・ミーンス・モレナール (Jan Miense Molenaer) 「宿屋にいる仲のよい二人」1640年代

宿泊客が、前掛けをし酒を給仕する宿屋の女にちょっかいを出している。二人を後ろから見ているマント姿の旅人は、フェーンの図絵中の旅人の姿に酷似している。


〖典拠:銘題・解説詩〗

典拠不記載:参照アブステーミウス(あるじ)のマムシを追い出すハリネズミに」(『イソップ物語』「ハリネズミとマムシ」(1610年版) 302ページ)。マムシたちの住む穴に、冬が近づいた頃、ハリネズミたちが同居の願いを申し出る。マムシたちは歓待するが、そのうちハリネズミたちが暴れて針が体に突き刺さるので、出ていてくれないかとやさしく頼むが、ハリネズミはこの穴にいられない奴が出て行くべしといい、マムシを追い出してしまう。

プラウトゥス:[➽26番]未詳。ダニエル・ハインシウス[➽海番]『ホラーティウスに宛てたプラウトゥスとテレンティウスについての議論』(『テレンティウス6喜劇集』収録 32ページ)のなかで、プラウトゥスを出典として、古典喜劇に見られる格言句の好例としてこの句を引用している。

典拠不記載:実際にはプラウトゥス『三文銭』265行。仕事か恋かの選択に迷っている若者が、恋をすれば女のいうがままに金銭を費やさなくてはならず、やがて身の破滅をもたらすから、恋はあきらめると自分に言い聞かせているときの言葉。

〖注解・比較〗

もてなしを受ける:原文は「分かれる」divertiとなっていて、「歓待を受けようと[妻を捨て]愛欲に向かう」となるが、ここでは「泊まる」devertiと解釈した。

:ローマでは犯罪人は、カピトリーヌスの丘の南東にあるタルペーイウスの崖から突き落とされた。

アブステーミウス:文献学者で、ウルビーノ図書館で活躍した。著作には、ギリシアの文献から集めた100の寓話集『ヘカトミュシウム』(1495)などがある。『イソップ寓話』の中に組み入れられ、広汎な読者を獲得した。

『三文銭』:父親は留守を息子と娘に託す。しかし息子は父の留守中に破産し、家を売り出す。ところがその家に宝が隠されていることをその父親から打ち明けられていた隣人は、憐憫の情を起こしてその家を買う。またその隣人の息子は破産した娘を持参金なしで妻に迎えようとする。その隣人は宝を持参金として使えるように、これまた憐憫の情から計画する。最終的にはこの計画は、留守をしていた父親が戻り、ご破算になるが、事情を理解したこの父親は宝を持参金として娘に持たせ、結婚が成立する。

宿:「女郎花(おみなえし) しをるる野辺を いづことて ひと夜ばかりの 宿を借りけむ」(『源氏物語』 39 夕霧)。「女郎花が しおれるように [娘の落葉の]宮が泣きしおれている この野辺の山荘をあなた[夕霧様]は いったいどこだと思い 一夜だけの宿とされたのか」(瀬戸内寂聴訳)。一条(いちじょう)御息所(みやすんどころ)は未亡人となった娘の落葉の宮のもとに、ある日、正妻のいる夕霧(光源氏の息子)が訪ね、一夜を明かしたことを知る。その夜、二人は契りを結んではいなかったが、母である御息所は契りを結んだものと思い、夕霧がそれ以来訪ねてこないことに憤慨する。一夜の宿は夫婦の契りと容易に誤解されてしまうのだ。


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