◇愛のエンブレム◇ 102
EXSATVRATVS ÆRVMNIS.
Ouid. Litore quot conchæ, tot sunt in amore dolores,
Et quot silua comas, sidera Olympus habet.
悩みに満足して
オウィディウス 愛の悩みは多く、それは海辺の貝の数ほどに、
森の木の葉の数ほどに、また天の星の数ほどに多い。
愛の無限の痛み
海の高波もこれほどの数はなく、
砂浜に打ち上げられるザルガイ✒もこれほどはない。
逆境となって不幸に満ちあふれるときの
愛の歎きは、その数ではるかに勝っている。
❁図絵❁
心臓を矢で射られた若者が、顔をやや上に向けながら両手を広げ腰かけている。若者の後に座るアモルは、火のともった松明を若者の頭の上で傾け、松明から蝋を落としている。若者からやや離れた頭上には葉のついた樹があり、また若者の足下は海岸につながっていて、そこには無数の貝が散らばっている。
❁参考図❁
ヤーコブ・ファン・カンペン (Jacob van Campen)「ホイヘンスと妻の肖像画」1635 年頃
ホイヘンスは、オランダの外交官、出納官、官房長として王家に仕えた。スザンナ・ファン・ベルレ (Suzanna van Baerle)に恋をするが、相思相愛の仲とならない。そこで詩人でもあったホイヘンスはスザンナにソネットを書き送り、その成果が実り結婚。結婚したその日一日の出来事と愛を歌った2000行に及ぶ詩を書く。この絵は歌集を広げ、二人で歌う姿が描かれているが、二人の生活は産褥によるスザンナの死で、この絵のわずか2年後に終わる。詩人は失意のうちにスザンナに宛てたソネット集を作る。
〖典拠:銘題・解説詩〗
典拠不記載:
オウィディウス:[➽世番]『恋愛術』2巻519行[➽2番]。2行目はフェーンの創作。該当箇所でオウィディウスは、恋をすれば自分自身が苦しみを被るのだと教え、その苦しみの数の多さとして、山に住むウサギ、ミツバチ、橄欖の実の数ほどに多いと述べている。
〖注解・比較〗
ザルガイ:(cocle shell)食用の二枚貝。英語で「心のザルガイ」というと、心の奥底という意味。
貝の数:「我が恋は よむとも尽きじ ありそ海の 浜の真砂は よみつくすとも」(古今和歌集 仮名序)。あの人に対する私の恋にまつわる思いはいくら数えても尽きることがあるまい、たとえ浜の真砂は全部数えつくすことがあったとしても。