◇愛のエンブレム◇ 110

QVOD CITO FIT, CITO PERIT.
Vt subitò incensa est stipularum flamma, citoque
In cineres, stipulâ deficiente, cadit:
Sic properatus Amor subitò euanescit in auras.
Principium feruens sæpe tepere solet.
さっと起これば、ぱっと消える。
麦わらに火はさっとつくが、あっという間に
燃えて灰になり、麦わらが足らなくなって消える。
同じように、一瞬にして燃え上がるアモルは、さっと空中に霧散する。
最初熱く燃えていても、生温くなるのはよくあるのだ。
すぐに火がつくものはすぐに燃えつきる
わらはすぐに火がつき、すぐに炎をあげて燃えるけれど、
ついた火で、すぐにすっかり焼けつきる。
恋心も同じで、すぐに火がつくものはすぐに弱ってしまう。
ことはなんであれ、性急に始まると、同じく終わりも性急になる。
❁図絵❁
アモルが、勢いよく燃えさかる麦わらに向かって飛んでいる。左手には矢を握り、まさに矢を火に打ちこもうとしているかのようである。
❁参考図❁

コルネリス・デ・マン (Cornelis de Man) 「暖炉の前にいる家族と二人の保母」1670年代
夫妻には二人の赤ん坊がいる。妻の顔は青白く、産褥からまだ十分に回復していないが、夫は赤ん坊の頭に触れて、満足な様子をしている。どっしりとしたマントルピースの付いた暖炉には、大きくもなく小さくもない火が持続的に燃え続けている。子という鎹も得たことであるし、この二人の間の愛は、たとえ情熱的に燃えることがなくとも、長く続くのだろう。
〖典拠:銘題・解説詩〗
典拠不記載:参考スピノザ✒「多くの人々がこうした偏見から自由になってもらうため、『すばやく生ずるものはすばやく滅する」というラテン語格言がどんな意味で真理であるのか……ということをここに示す必要はない」(『倫理』1巻定理11 備考 畠中尚志 訳)
典拠不記載:
〖注解〗
スピノザ:〔1632―77年〕 オランダの哲学者で、レンズ磨きで生計を立て、余暇はひたすら著作に没頭したといわれている。「永遠の相の下に」(sub specie aeternitatis) 個々の事物や出来事を直観することを説き、神の知的愛の重要性を教えた。
▶比較◀
火:「年を経へて 消えぬ思ひは ありながら 夜の袂は なほ氷りけり」(古今和歌集 紀友則 596)。<大意>「何年経過しても、貴方に対する思いの火は消えずにあるのに、夜を一緒に過ごせず私ばかりが涙を流すので、火があるにもかかわらず衣の袂が凍ってしまいます」。寒い夜の独り寝のわびしさと強い恋心を詠いつつ、恋の火が燃え続けていることを明示している。すぐに燃え尽きてしまう恋心とは対照的な、逢えずにいても消えない恋心は、ゆっくりと時間をかけて深まっていくのかもしれない。
