◇愛のエンブレム◇ 115

MEA VITA PER IGNEM.
Hei fatum crudele mihi! mea vita per ignes
Crescit, & in medijs ignibus esse iuuat.
Me nutrit, veluti salamandram, Cyprius ardor:
Plus iuuat in te, quàm te sine flamma mori.
火を浴びて生きる。
僕の運命はなんとひどいものだ。火を浴びれば生き延び、
火のただなかにいるのが気持ちがよいのだ。
僕を養うのは、火トカゲのように、キュプルスの炎✒だ。
君がいないよりは、燃える君と死ぬ方が楽しい。
愛は火で生きる
火のただなかにあっても傷を被らずに
火トカゲは生きる。恋する男は愛の炎に喜び、
恋は愛の炎を命の糧とする。恋人ならばこそ、
死にいたることが、生命を与えるのだ。
❁図絵❁
燃えさかる炎の中にサラマンドラ(火トカゲ[➽僕番])がいる。首を曲げたその視線は、両手に一本ずつ松明を持って空中を飛ぶアモルを見つめている。
❁参考図❁

マールテン・デ・フォス(Maarten de Vos)「触覚」16世紀末頃]
<触覚>を象徴する女性は、右手でついばむ鳥をささえ、左手で亀の甲羅に触れている。右手背景には、イエス・キリストと、イエスに招かれて(手を相手の頭の上に置いて任命する仕草)を受けイエスの弟子となるペテロがいる。また左手背景には、禁断の実に触れ食べたため、楽園から追放されるアダムとイヴがいる。<触覚>の右足元にはサソリと並んで、首をもたげたサラマンダーがいる。サラマンダーは、火中の試練のときにあっても神への信頼を失わず平静を保っていられることを象徴している。サソリはその尾を振り上げて毒針を突きさすが、それは神による報復を象徴している。
〖典拠:銘題・解説詩〗
典拠不記載:参照 ペトラルカ✒「自分の死を糧として、炎の中で私は生きる。奇妙な食べ物、不可思議の火トカゲよ。」(『カンツォニエーレ』207歌40-41行)
典拠不記載:「火の中でも燃えないような動物が存在するということは、サラマンドラ[火トカゲ]の例によって明らかである。すなわちこの動物は「火の中を歩いて、火を消す」といわれている。」(アリストテレス[➽2番]『動物誌』✒5巻19章552 b15)。「マギ[ペルシアの魔術師]たちがいうところによれば、火トカゲは火に耐性があり、火を消す特性を持っている唯一の動物である」(プリーニウス✒『博物誌』29巻23章)。
〖注解〗
キュプルスの炎:キュプルス(キプロス)島のパポスの浜[➽アモル番]は、愛の女神ウェヌス誕生の地と信じられていた。したがって「キュプルス」は愛の代名詞であった。
ペトラルカ:〔1304-74〕ルネッサンス人文主義の先駆者として古代ローマの写本を発見。また詩人としては、女性ラウラへの愛を詩想として、主に清純な愛のあり方をめぐる喜びと苦悩を歌った『カンツォニーレ』(計366編)は恋愛ソネットという文学ジャンルを形成するほどに後代に影響を与えた。「想いから想いへ、山から山へ、/アモルは私を導く」(127番1-2行)は有名。
『動物誌』:動植物の生態、諸器官、性質を個々に詳細に記述した大部の著作。動物の特徴を知るための格好の手引き書として、16世紀後半から17世紀初頭にかけて複数のラテン語訳が出版されている。
プリーニウス:〔23-79〕皇帝ネロの同時代人で、軍人、行政官。ポンペイを埋もらせたウェスウィウス火山噴火の調査中に死亡。その好奇心の旺盛さは、ローマ帝国の諸地域の地誌を集大成した『博物誌』全37巻に現れている。古代ローマにおける文物や動植物の生態を知るための百科事典として16-17世紀にはきわめてよく参照され、それはアリストテレス『動物誌』の比ではなかった。
▶比較◀
火:「夏なれば 宿にふすぶる 蚊遣火の いつまでわが身 下燃えをせむ」(古今和歌集 詠み人知らず500)。<大意>「夏になって家で焚き、くすぶる蚊遣火(煙で蚊を追い払うために燃やす火)のように、いつまで自分も、燃え上がらずにくすぶっている下燃えの状態で、恋続けているのであろうか。なかなか自分の恋心を表に出せずいる自分がふがいない」。この歌では、自分の心の中で燃える炎の、その秘めた激しさを、燃え上がることなくくすぶり続ける蚊遣火にたとえている。その比喩は、恋を表に出すことができない辛さと煩悶を暗示している。それは、「火のただなかにいるのが気持ちがよい」という、燃え尽きてでも恋の中に生きる大胆な覚悟とは真逆である。
