◇愛のエンブレム◇ 6

GRATA BELLI CAVSSA.
Porphyr. Cupidinem enixa Venus, illumque paruulum remanere videns, oraculum adijt, à quo intellexit tum demum fore vt cresceret, cùm alium pareret filium: peperit Anterotem, qui Cupidini oppositus, & cum eo de amoris palma decertans, ipsius incrementi caussa fuit.
争いの喜ばしき大義。
ポルフュリオス✒ アモルを産んだ女神ウェヌスは、自分の子が小さいままであるのをみて託宣を乞うたところ、お告げでは、もう一人の息子を産みさえすれば体が大きくなるということを知った。そこで女神は、アンテエロース✒を産んだ。この子がアモルと敵対し、愛のシュロ✒をめぐり争ったが、それはアモルが成長する原因となった。
競いあえば愛は高まる
アモルとアンテエロースはシュロを手に入れようと争っている。
愛することと愛されることが二つ競い合う。
勝利を左右するのは、相手をだれよりも愛するということ。
自分には真実の愛があるので、勝利は我がものとそれぞれが考えている。
❁図絵❁
入り江の見晴らせる場所で、二人のアモルが、一本のシュロをめぐって引き合っている。
❁参考図❁

ウィレム・ピエテルス・バイテウェッヘ (Willem Pieterszoon Buytewech)「気品あるカップルの求愛」1618年頃
二組のカップルのうち、右の二人はすでに付き合うことで合意しているが、左の二人は、とくに男性がまだその気になれないようだ。左奥の格子にかかっている紋章には蜘蛛の巣がうっすらかかっている。この巣は、いずれこの二人も、目下進行中のバラのリボンを選んで恋人を決める恋愛ゲームの罠にかかって、付き合い始めることを暗示している。
〖典拠:銘題・解説詩〗
典拠不記載:
ポルフュリオス:典拠未詳。参照「ポルフュリオスはエロースとアンティエロース✒についてこう書いている。……最初の子が小さいので大きくなるようにと母ウェヌス女神がテーミス女神にうかがいを立てたところ、そのお告げは、「この最初の子にはもう一人のエロース[アモル]が必要だ」というものだった。ウェヌスはこの忠告に従って、アンテエロースを産んだ。実際、この子を産んでみると、エロースはすぐに大きくなり、羽を生やし始め、アンテエロースがそばにいればいるだけ、背も高く、ハンサムにもなっていくようであった。」(トルレンティウスおよびナンニウス『ホラーティウス註解』1608年, 83ページ)。「[エリス市の]体育場のひとつには、エロースとアティエロース……を描いた浮き彫りがある。エロースはシュロの枝を握り、アンティエロースはこの子からその枝を奪おうとしている」[飯尾都人訳](パウサニアース✒『ギリシア記』✒6巻3章5節)。
〖注解・比較〗
ポルフュリオス:〔232年頃-305年頃〕ギリシアの新プラトン学派の哲学者。ルネッサンスでは、師プロティノスの著作である『エンネアデス』の編纂者、ピュタゴラス伝の著者として知られていた。
アンテエロース:アモルは、ギリシア神話ではエロースとよばれる。アンテエロースとは、そのエロスに対立する性格を備えたエロースという意味。
シュロ:「シュロは、同類の他の樹から離すと実をつけないが、一緒か近くに植えてやると、とてつもなく実をつける。そのため、結婚式で祝福を示す場合には、並んだ二本のシュロを描いて、『相互に多産』、『一番近くにいることで多産』という銘を添える。」(ピッチネッリ『シンボルの世界』1687年, 581ページ)。アモル単独では成長しないが、アモルに似たアンテエロースの登場で成長することを暗示する。また二人の「仲の良さ」(bonorum societas)も同時に暗示している。
パウサニアース:〔150年頃〕ギリシアの地誌・歴史家。この時代のギリシアへの関心と呼応して、ギリシアの各都市(ポリス)を実際に訪れ、その地理・歴史を叙述した。『ギリシア記』:〔160年-180年〕ギリシア語で執筆された、各都市の地理・歴史の記述。著者が実際に都市を訪れ、それぞれの都市の神殿、記念物、芸術作品、宗教行事についてどういう形で何が描かれどんなことが行われているかが、実地見聞や土地の人の伝聞にもとづき詳述されている。
争い:「橘の 小島の色は かはらじを この浮舟ぞ ゆくへ知られぬ」(『源氏物語』浮舟)。「橘の小島の木々の緑は 永久に変わらないものを 波に漂う浮舟のような はかないわたしの身の末は どこへ流れてゆくのやら」(瀬戸内寂聴訳)。光源氏の正妻である女三の宮が不義をして産んだ薫大将は、その体から薫香がいつも漂う。一方、源氏の孫にあたる匂宮は、薫に対抗していつも匂いを焚き染めていた。この二人は、低い身分で東国育ちの浮舟に恋し、匂宮は薫を出し抜いて、浮舟を隠すべく宇治の屋敷に住まわせる。引用は、その宇治への道行きで、浮舟が詠んだもの。浮舟は二人の男性に両側からひかれるシュロの心境を語っている。
